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「問い」をカタチにするインタビューメディア

発想とカタチ

メディアアーティスト/ライゾマティクス・真鍋大度さんが、
株式会社マテリアル/ 「下町ボブスレー」ネットワークプロジェクト・細貝淳一さんに聞く、
「『下町ボブスレー』の舞台裏」

今回のインタビュアーは、Perfume紅白歌合戦をはじめとするエンターテインメント分野の演出から、ホンダラフォーレ原宿などの広告案件、国内外でのアートプロジェクトへの参加まで、幅広い領域で活動するアーティスト/プログラマーの真鍋大度さん。各業界から熱い視線が注がれている真鍋さんがインタビューするのは、アルミ材料を主軸に素材の販売から加工、最終製品までを手がける株式会社マテリアルの細貝淳一さん。大田区の町工場が中心となり、日本の技術だけで作る国産ボブスレーを開発し、冬季オリンピック出場を目指す「下町ボブスレー」ネットワークプロジェクト推進委員会の委員長も務める細貝さんに、真鍋さんが聞きたいこととは?

真鍋大度
もの作りに大切なことは何ですか?

細貝さんとの出会いは卒業制作の時なんですよね。マテリアルに飛び込みで行って相談をして、夜中に工場の機械などを使わせてもらって作品を完成させることができたのですが、展示にも来て頂けましたよね。

細貝:そうだったね。最初は、真鍋たちにどれくらいやる気があるのかなと思っていたんだけど、マシンだけこちらでセッティングしてあげたら、自分たちで徹夜で作っていたよな。それから何年かして、真鍋たちの工房に遊びに行ったら、その時にお金を返してきて、なんて律儀なヤツなんだと(笑)。

借りたお金でしたから(笑)。でも、4年くらい経つまでなかなか(お金が)作れなかったんですよ。細貝さんにはその後も飲みに連れて行って頂いたり、仕事のご相談をしたりしていますが、例えばアートプロジェクトなどに取り組む際にもの作りの技術が必要になったら、協力してくれそうな企業や工場をグーグルなどで調べて、片っ端から電話をするというケースも結構多いんですね。僕の場合は細貝さんに聞くことが多いですが、技術力のある中小企業などと接点を持とうとする時に何か良い方法はあると思いますか?

細貝:もの作りをする時に、選定先が全方位になってしまうと、とても面倒くさくなるよね。例えば、真鍋が何かネタを持っていたとして、それを一からすべて説明して相談するのは大変だし、ちょっと悪い会社だとそのネタだけ持っていくこともある。だから、信頼ができるもの作りの会社を紹介してくれるような人がいるのがやっぱりいいんだよね。それに、そういう会社と信頼関係が築けると、その後もしっかりローテーションしていくからね。自分たちは製造業と言われているけど、実はサービス業じゃないといけないと思っていて、真鍋にしても同じだと思うけど、いくら技術があってもそれを出すところがなかったらマスターベーションで終わっちゃうでしょ。

そうですね。実際にしばらくはそういう状態が続いていたんですが、YouTubeなどが普及して、そこに動画をアップすることで多くの人に見てもらえるようになり、仕事などにも繋がっていくようになりました。細貝さんと出会った頃から、そこまで行き着くのはかなり大変でしたが(笑)。こういう業界は人気商売的なところもあるんですが、僕らにしかできないプログラミングやエンジニアリングでもの作りをしていきたいというのはありますね。

細貝:「技術だけでは金を生みにくい」という話はよく言われることだけど、結局はプロモーションができないとダメなんだよね。いまもの作りの現場というのは日本から海外に流れていってしまっているけど、もともと資源のない国だった日本にとって、技術というものは大きな武器だったわけだよね。もちろんその技術がなければ始まらないけど、我々のような中小企業が技術技術と吠えても意味がない。そこで目を付けたのが、ボーイング787の機体などに使われていて、今後のトレンドになっていくであろう炭素繊維で、これをオリンピックという場所で配信をしていこうというのが、いま進めている「下町ボブスレー」なんだよね。

真鍋大度
なぜ「下町ボブスレー」が生まれたのですか?

先日僕らも、2020年の東京オリンピック招致ビデオの制作に携わったりと、スポーツとのコラボには興味があるところなのですが、「下町ボブスレー」がスタートした経緯を教えて頂けますか?

細貝:人件費などのコストが高い日本から、色んなもの作りが海外に流出していくなかで、自分たちの住む国や地域というのはどんどん衰退しているわけなんだよ。バブルの頃は大田区に1万社以上の工場があったんだけど、いまは4000社以下になっていて、どんどん食べられなくなっている。そういう状況の中で、大量生産の分野に入っていって、誰にでもできる仕事をしても生き残れない。我々は航空産業や防衛産業など高い技術がなければできない領域をやってきていたこともあったから、これからは世界が注目する炭素繊維と金属の融合というところにスポットを当てて、世界に発信していこうと。そのための題材を探していたところ、大田区の方からボブスレーをやらないかという声がかかったんだよね。ボブスレーはエンジンがないから大手企業の力を借りずに、自分たちの開発力だけで勝負に打って出れる。それなら地域の企業が協業することで地元を盛り上げていこうと考えたんだよね。

12年5月に開催された製作記者会見。

具体的にはいつ頃から動き出したんですか?

細貝:始まったのは2011年なんだけど、震災などの影響もあって最初の年はなかなか進まなかった。その年の11月に決起集会をやることになり、10社くらいが集まったんだけど、そこで「こうしないと進んでいかない」という意見を言ったところ、委員長をすることになっちゃった(笑)。まずは自分たちの尻に火をつけるためにも記者会見をやろうということになり、12年の5月に製作記者会見を開いたら意外と記者が集まって、翌日の新聞の一面に大きく「大田区がボブスレーで世界に挑戦」と出たんだよね。それからは1年数ヶ月で3号機まで製作し、全日本で優勝したり、世界戦に出ていたりと順調には来ているけど、裏方は色々大変ですよ(笑)。

現在は何社くらいがプロジェクトに参加しているんですか?

細貝:100社くらい。ボブスレーのレギュレーションに引っかかって自分たちの技術を使うことができない企業などもあるんだけど、そういうところもビラなどを配ってくれたりしてるよ。最終的には、大田区の4000社すべてでやりたいと思っているんだよね。いま日本は情報漏えいということに凄く敏感になっていて、コミュニティができづらい状況があるでしょ。ましてや我々は技術職だから、隣にいる友達にも技術の話ができないという風潮がなんとなくある。でも、臆病になっていたら何もできないし、そういうことは関係なく、地域ごとに連携をしていくことで世界と戦っていけるような状況を作りたいと思っているんだよね。

真鍋大度
海外のもの作り事情はどうですか?

「下町ボブスレー」は、地域が現在抱えている問題なども解決しつつ、進めているプロジェクトなんですね。

細貝:そう。もの作りのトレンドが世界に流れているというのは自分たちにとっては危機なんだけど、資本がない中小企業がわざわざ中国・韓国などの海外に進出しても仕方ない。それよりも世界で勝負できるテクノロジーがあるんだから、その武器を発信していこうというのがプロジェクトの始まりなんだよね。

日本のもの作りは海外の事情と比べるとどうなんですか? ドイツのようにブランド力の強い国もありますが。

細貝:ドイツというのは、国の政策から、税収の投資、技術の配信やつなぎ方まで、日本とはまるで違っていて、学ばないといけないところがたくさんあると思う。「下町ボブスレー」の話にしても、ドイツに技術を学びながら追いかけていきたいということを彼らに伝えたら、力を貸してくれることになって。自分たちだけが一人勝ちしようということではなくて、ボブスレー全体のことを考えて成長していこうという考え方があるんだよね。そういう面でも、彼らは投資の仕方を知っているなと感じるんだよね。

日本のボブスレーの状況は「下町ボブスレー」によって変わっていきそうですか?

細貝:ボブスレーというのはもともと選手人口が少なくてトライアルなどにもあまり人が集まらなかったんだよね。でも、「下町ボブスレー」の人気が出て、先日は元アメフト選手をはじめ、色んな人たちが集まった。また、オリンピックに出るためには海外遠征に行ってポイントを稼ぐ必要があるんだけど、費用が不足しているから、強化選手でも遠征費を自分で払わないといけない状況がある。それをこちらが負担をしたり、重かったFRP製のヘルメットをすべてカーボン製に替えたりということも「下町ボブスレー」ではしている。ただ機体が速い遅いということだけではなくて、選手のメンタル面も考えてスピードをアップしていくというところを目指しているんだよね。

真鍋大度
どうやって信頼関係を築いたのですか?

先日、安倍首相が施政方針演説で「下町ボブスレー」と細貝さんのお名前を出していましたよね。あれはオフィシャル感があって凄いなと思いました

細貝:うん、自分たちにとって凄く良いトリガーになったと思う。国会の議事録にも残るわけだから、総理が個人の名前を出すというのはよほどの覚悟がないとできないことだよね。安倍さんが大田区に来た時に、もの作りについて色々お話をしたんだけど、安倍さんの中で中小企業を応援したいという気持ちが強かったんだと思うし、これで安心してついてくれたスポンサーも結構あった。NHKでのドラマ化や、海外のBBCやNew York Timesなどでドキュメンタリーの配信が決まったりと、凄く良い環境ではあると思いますね。

「下町ボブスレー」を始めてみてから気づいたことはありますか?

細貝:キチッと根の生えた人脈がたくさんあったんだということに改めて気づいたところがあった。自分は単なる中小企業のおじさんだけど、それこそいまでは東証一部上場企業の社長クラスになっているような人でも、普通に昔のままの友達でいてくれる人がたくさんいるんだよね。スポンサーを募る時などにもふたつ返事でいいよと言ってくれるんだけど、本当は稟議を通すのは大変なはず。それでも絶対やると言ってくれる人たちが数十人いたということが、このプロジェクトの原動力にもなっていると思う。

そういう人たちとはどうやって関係を築いてきたんですか?

細貝:真鍋たちとの付き合いと一緒だよ。自分たちがまだ何の力もない時から、困っていることがあればお互いに助けたり、切磋琢磨してきたということが大きいんだと思う。自分が思うことを素直にやってきた結果が形になってきたということかな。とにかくこれからも豊かに暮らしていきたいね(笑)。

ですね。何が豊かということなのかをきちんと考えながら暮らしていきたいです。<インタビュー終わり>


インタビューを終えて

これまでも色んなメディアなどを通して『下町ボブスレー』のことは知っていたのですが、今日こうして直接細貝さんからお話を聞くことができて良かったです。こういう人は他にはなかなかいないですし、色々な業界が問題を抱えているなかで、細貝さんのような人が舵を切ってそれを解決をしていくということはとても大切だなと思いました。
いま日本のクリエーション全体を見ると、外に向けて大きな声を発している人たちばかりが目立ってしまっているように感じるのですが、細貝さんの話にもあったように、コミュニティへの貢献や連携という意識がないと、なかなか全体のレベルは上がっていかないと思っています。僕らが関わっているオープンソースの世界でもそれは当たり前のことで、例えば『openFrameworks』を使っていれば、そのコミュニティに対してどう還元できるかということを考えるんですね。そういう意味でドイツのもの作りの話にも何かヒントがあるように感じました。ちょうどこれから細貝さんと直接一緒に仕事をする機会もできそうなので、それもとても楽しみですね