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「問い」をカタチにするインタビューメディア

暮らしの更新

マンガ家/映像作家・タナカカツキさんが、
サウナ愛好家・濡れ頭巾ちゃんさんに聞く、
「いまサウナに行くべき理由」

カンバセーションズにはこれで3度目の登場となるタナカカツキさんが、今回インタビュー相手に選んでくれた相手は、独自の目線で全国のサウナ施設を検証するブログ「湯守日記」が人気を集めているサウナ愛好家・濡れ頭巾ちゃん。サウナ好きが高じて、自らのサウナ体験をエッセイやマンガで綴った著書『サ道』を刊行してしまったカツキさんが、今回取材場所を提供してくれた「サウナ東京ドーム」さんでひと汗かいた後の休憩室で、奥深いサウナの世界を濡れ頭巾ちゃんから聞き出します。
取材協力:サウナ東京ドーム

タナカカツキ
サウナで「整う」ってどういうことですか?

「湯守日記」は日本一内容の濃いサウナブログだと思うんですが、これを見てまず気になるのは、サウナや銭湯というのはある意味道楽なわけで、「一体この人は、普段何をしているんだろう?」ということだと思うんですよ。

濡れ頭巾ちゃん:広告/デザイン関係の会社で働いていますが、これはあくまでも仮の姿です。地方に行くことも多いんですけど、まずサウナありきで、そこに色々と理由をつけて出張を作っているところがあるくらいなんです。その場所に行って、仕事は5分くらいで済ませて、あとは5時間くらいサウナに入っていますね。出張というほどではない場合にしても、サウナ次第で行き先までの路線が変わるんですよ。だから、路線探索のアプリなんかでも、運賃や時間優先モードだけじゃなく、サウナという項目も欲しい。

そのアプリ、開発が急がれますね。要は濡れ頭巾ちゃんは、基本サウナが優先だと。そこ重要ですね。とはいえ、残念ながら世の中的には、サウナってさほど興味を持たれていないと思うんですよ。サウナと言っても色々なものがありますが、多くの人が思い浮かべるのは、日本式のサウナですよね。

濡れ頭巾ちゃん:そうですね。日本のサウナというのは高温で、湿度が低いんですね。フィンランドなんかに行くと温度はもっと低いんですが、高温の石に水をかけた時の蒸気が立っていて、湿度は高いんです。

以前に、フィンランド人のサウナ―の人と対談をさせて頂いた時に、「日本のサウナは、熱い中でただ身体を焼いているみたいだ」と言っていましたね。フィンランド人からすると重要なのは水風呂で、捉え方が全然違うんですね。濡れ頭巾ちゃんを筆頭に、日頃からサウナを楽しんでいる人たちにも、それぞれオリジナルの楽しみ方がありますよね。

濡れ頭巾ちゃん:そうですね。100人いれば100人分のサウナ観というのがあると思うんですね。僕自身は、サウナは単に温浴して汗を流すだけのものではなく、もっと根源的なものだと思っています。それは何かと言うと、「自分に還る」ということなんです。

濡れ頭巾ちゃんが執筆するブログ「湯守日記」。

濡れ頭巾ちゃんが最初に言い始めて、いまやサウナ―の間で浸透している「整う」という表現がありますが、これはピッタリの言葉ですね。「リフレッシュ」や「ストレス解消」という言葉では言い切れないものがあるんですよね。「整う」と言われても、ねづっちのことくらいしか思い浮かばないサウナ未経験者も多いわけですが、この感覚もう少し説明して頂けますか?

濡れ頭巾ちゃん:サウナに入ると、汗や老廃物が全部出て、ドロドロしていた血液もサラサラになって、体内の血や水がすべて入れ替わる感じがするんです。世の中には仕事とかで色んな嫌なことがありますよね。そうした現世でよどんでしまったものが水によって浄化されて、全身が生まれ変わる。その時に、柔道で背負投げが決まって「一本!」と声が上がるのと同じような感覚で、自然と自分の内から「整った!」という声が出ちゃったんですよ。これこそが自分のオリジンに還っていく感覚なんです。よく若い人が自分探しをしますけど、サウナと水風呂の行き来を繰り返していくことで、すべてがスパーンと整って、自分が見つかるんです。

でも、濡れずきんちゃんはしょっちゅうサウナに行っているじゃないですか。一体何度自分を失ってるんですか!(笑)

タナカカツキ
なぜ「濡れ頭巾ちゃん」なんですか?

サウナネームがあること自体がバカバカしいですが、とりあえずそこはすっ飛ばし、「濡れ頭巾ちゃん」の由来についてお聞きしてもいいですか?

濡れ頭巾ちゃん:日本式のサウナは湿度が低いから、ちょっと呼吸がしづらかったりするじゃないですか。そんな時に濡れタオルを頭の上からかぶったりしますよね。これまでにサウナの中でどういう状態でいるのが一番良いのか色々試した結果、この濡れずきんに至ったんです。サウナの中にはテレビがあったり、12分計があったり、おっさんがタオルでパンパンやっていたり、そのおっさんの股間が見えたりして、結構目に入ってくるものがあるんですよね。そういうものをタオルで視界から遮ると、今度は耳から色んな音が入ってくる。一度その耳も塞いでみたことがあったんですけど、そうすると自分の心音しか聞こえなくなったんです。これはまさに自分の中の音ですよね。さすがに普段は耳までは押さえていませんが、外の世界を遮断することで、一番快適に自分に還れることがわかったんです。

我々サウナ―からしても、サウナに来てタオルをだら~んと垂らしている人がいたら、今日は濡れ頭巾ちゃん来てるんだってわかりますからね。ところで、濡れ頭巾ちゃんの初めてのサウナ体験はいつ頃まで遡るんですか?

濡れ頭巾ちゃん:小学1年の頃ですね。僕は旭川出身なんですけど、ついこないだ小学校の同窓会があったんですよ。その時に『濡れずきんちゃんにサウナ連れて行ってもらったよな』って言われました。

その時はまだ濡れずきんちゃんじゃないですが(笑)、そんな印象を同級生に残していることが凄いですね。まさにサウナとともに人生があるんですね。


濡れ頭巾ちゃん:そうですね。大切なことは全部サウナで学びましたね。

これだけ色んなサウナに入ってきた人も珍しいと思うんですけど、ブログとかを拝見していて印象的なのは、「郷に入っては郷に従え」じゃないですが、どんなサウナも基本的には肯定していますよね。まるでアメーバーのような感じで、どんな場所にもスッと無意識の状態で入り込んでいって、そこにちゃんと収まっている感じがします。

濡れ頭巾ちゃん:それって生物の本質だと思うんですよ。今西錦司という人が書いた「生物の世界」という本があって、そこには、まず場が中心にあると書かれているんですね。快適な場というのがその生物にとって生きていける場所なんだと。その場ありきの考え方は、まさにサウナにも当てはまる話なんですよ。どんなサウナでもそれぞれ「整え」るし、それだけサウナは尊いものだと思っています。

今回取材に協力して頂いた「サウナ東京ドーム」は、3種のお風呂、3種のサウナ、ラウンジを備える男性用サウナ。

タナカカツキ
サウナの入り方に作法はありますか?

この記事を読んだ人が、自分もサウナ行ってみようかなと思った時に、当然初心者だから何もわからない状態にあるわけですよね。サウナの入り方は人の数だけあるという話もありましたが、濡れ頭巾ちゃん式のサウナの入り方を教えて頂けますか?

濡れ頭巾ちゃん:例えば、イチローがバッターボックスに入るまで毎回儀式のように同じ動作をしているのと同じで、長年サウナに入っていると、自然と型が決まってくるんです。僕の場合はまずロッカーで洋服を脱いで、鏡に映るだらしない身体を横目でチラっと見ながら体重計に乗ります。そこで昨日は飲み過ぎたかなとか、ちょっとやせすぎかなということを測るわけですね。

まずは物質的な自分を見つめるんですね。

濡れ頭巾ちゃん:そうですね。それから浴室に入って身体を洗います。次が一番大切なんですが、まず水風呂に入るんです。僕はこれを「水通し」と呼んでいるんですけど、ネギやほうれん草なんかを湯通しするみたいに、10秒から20秒程度水に慣れ親しんで、この施設の水風呂はどんなもんなのかという情報を事前に入れるわけです。この時はまだ自分が見つかっていなくて、疑心暗鬼の状態なわけですが、先に水通しをすることで、どのくらいサウナの中に入っていればいいかということも体感的にわかってくるんですよ。

「サウナ東京ドーム」さんにある90C°~100C°の高温ドライサウナ。

水通しを終えて、最初にサウナに入る時はだいたいどのくらいいるんですか?

濡れ頭巾ちゃん:その時々で自分の身体に聞きながらという感じなので、特に時間は測っていないですね。よく初心者の方は頭で考えちゃうんですけど、時間に縛られるのではなく、熱いなと感じたら出るくらいでいいと思います。よく我慢して汗をかきながら、まだいけるとかやっている人もいて、僕もそういう時代があったんですけど、時間から解放されてから一気に楽になりました。ブルース・リーが『死亡遊戯』で、どこから攻めてくるかわからない相手に対して「Don’t think, FEEL!」と言ったのと同じ感覚ですね。

例えば、100度の熱湯に触れて反射的に手を引くような感覚に近いんですね。考えることなく、施設に自分を同化させると。

濡れ頭巾ちゃん:そうです。時間を考えている時点で現世の仕事なんかの延長線上にいるんです。もっと本当のオリジンに戻らないと。赤ちゃんがお腹が空いたら泣くのと同じように、熱かったら出ればいいんです。僕はいつも水風呂とサウナを3往復くらいしますが、そうやって自然に行き来していくうちにだんだん覚醒していくというか、ゆっくりと自分に還っていくんです。

最後も水風呂で締めるんですか?

濡れ頭巾ちゃん:はい。それから休憩室やベンチで少し休むんですが、その後の食事というのも凄く重要なんですよ。「整った」後のご飯というのは本当に美味しくなるんです。もちろん外に繰り出して食べるのもいいですけど、施設内のご飯もなかなかいいんですよ。身体の汗や老廃物が全部出て、覚醒している状態だから味覚も敏感になっているし、まるでお母さんの初乳を飲むように、生まれて初めて食べ物を口にするような感覚だから、本当に美味くてしかたないんですよね。

自分が見つかった後に食べるごはんは美味しいですよね。見つからないうちに食べるごはんなんか、胃に入ってないんじゃないかと思っちゃいますよね。

タナカカツキ
もしもサウナがなくなったらどうしますか?

人間が1日8時間寝るとして、5時間もサウナにいる濡れ頭巾ちゃんの場合、1日13時間は無意識の状態。メチャクチャ多いですよね(笑)。

濡れ頭巾ちゃん:そうなりますね(笑)。でも、無意識の時間ってメチャクチャ楽しいじゃないですか。

これだけサウナと切っても切れない関係にある濡れ頭巾ちゃんですが、もし仮にこの世からサウナがなくなったらどうしますか?

濡れ頭巾ちゃん:怖いですね。そのことを考えるだけでパニックになりそうです。

もともと僕の最初のサウナ体験はジムなんです。仕事には体力が大切なので、衰えていきつつある自分の体力を保持するためにジムに行ったんですけど、そこで初めてサウナの存在に気づいたんです。だから僕の場合は、サウナがなかったらジムやウォーキングとかをしているような気がします。もしくは皇居の周りを走ったり、ヨガとかをやったりすることで、サウナに近い感覚が得ようとするのかなと。

濡れ頭巾ちゃん:たしかにウォーキングとかも気持ち良いし、快感は得られますよね。ただ、僕にとってサウナか否かというのは、「整え」るかとどうかなんですね。僕はこの「整う」という感覚を、いままで他の行為で得たことがないんです。そもそも小1でそれを知ってしまっているわけですからね。あまり質問の答えにはならないですが、もし仮に僕がサウナのない世界に行ったとして、サウナという存在自体は知っているとしたら、そのサウナの思い出だけで「整う」ことができる。サウナのことを考えるだけでもうイケるみたいな(笑)。

バーカ(笑)。でも、たしかにサウナのことを考えるだけで脳から気持ち良い汁が出てきて、仕事ももうひとがんばりできたりしますよね。そういえば僕は前に朝までレイブでアホほど踊り続けた後にも、サウナで整った時に近い感覚があったんですよ。野外レイブだから森の中だし、汗をかいたり水を飲んだり、やっていること自体はサウナとほぼ同じだったんです。


濡れ頭巾ちゃん:要は、自然と一体になる感覚が「整う」ということなんだと思います。そういう意味では、森の中を歩いている時に近い感覚が得られることもありますよね。空気が凄く綺麗なところで、どちらかというとひんやりした感じがいいですね。

さらに湖もあって、そこにドボンって入ってね。なんなら木で小屋を建てて、中に熱い石をおいて、水をかけてジューってやるのもいいですね。

濡れ頭巾ちゃん:そうですね。…ってそれ、もうサウナですね(笑)。

タナカカツキ
これからのサウナの役割って何ですか?

僕はこれからもっとサウナが注目されたり、誤解が解けることを望んでいるんですね。そこで最後に、濡れ頭巾ちゃんが考えるサウナの明るい未来について聞きたいなと思います。

濡れ頭巾ちゃん:例えばフィンランドには「サウナ外交」という言葉があって、サウナで会談をしたり、友好関係を結んだりするんですね。ずっと話してきたように、サウナというのは、人間の根源に還るような場なんですが、そういう場から平和な世の中を作ることができると思うし、昨今叫ばれているいじめの問題をはじめ、色んな社会問題を解決するための重要な場になれるんじゃないかなと。

「サウナ東京ドーム」さんのスチームサウナ。 高温サウナが苦手な方でも充実の蒸気浴を楽しむことができます。

なんで国際会議がサウナで行なわれていないのか不思議ですよね。いじめっ子や暴力教師に「サウナ入っていますか?」と聞いてみたい。日本という国から裸の付き合いがなくなりつつあり、サウナというものが忘れ去られそうな現代だからこそ、改めてその存在を見つめ直してほしいですよね。そういう意味でも、「湯守日記」はサウナ普及という面で重要な役割を果たしているんじゃないですか?

濡れ頭巾ちゃん:そんな大げさなことは考えていないですけどね。これはあくまでも日記で、何が気持ち良かったか、どう整ったかということを記録しておきたいだけなんです。とはいえ、やっぱりサウナなしでは生きていけませんから、世の中に良いサウナが増えていけばいいなとは思っています。そのためには、たくさんの人が利用するようになって、それぞれが好きなサウナを見つけていくことで、面白い場所がもっと増えてくれればうれしいし、その手伝いができたらいいなと思っています。

良いサウナが増えるのに越したことはないですからね。

濡れ頭巾ちゃん:そうですね。僕は、サウナというのはブルースだと思うんですよ。つまりそこにはソウルがあって、それが肌を通じて心に染み渡るようなところがあるんです。だから、古くて汚くて、おっさんばかりたくさんいるようなところでも、経営者の心意気というのが水を通じて伝わってくるところは良いサウナなんです。水には、良いものも悪いものも伝播するところがあるんです。そもそも人間はほぼ水でできているわけだし、その水を司るサウナを経営する人たちの心というのは、我々に伝わってくるんですよね。好きだったあの娘の涙のように、水風呂が心に沁みてくるわけですよ。

バーカ(笑)。


インタビューを終えて

インタビューの中でも出てきましたが、熱い室内でグリルされるように汗をかくサウナというのは日本式で、かなり特殊なものなんですね。その中でストイックに汗をかくというのも日本人の勤勉な性格とマッチしているし、リフレッシュできることは確かなので、全然悪くはないと思うんです。でも、濡れ頭巾ちゃんも話していたように、サウナというのはそれだけじゃないよということは言っておきたいですし、まさに『整う』という感覚が得られる場所なんです。日々モニターと向き合って、僕と同じような仕事をしている人たちや、このインタビューを読んでいるような人たちはみんな、絶対にサウナに行った方がいいと思うんですよ。そこで考えが整理されたり、色んなアイデアが思いついたりするし、僕なんかもうサウナでしかアイデアが出なくなっちゃっていますからね。
インタビューの最後に濡れ頭巾ちゃんは、サウナ普及なんて大げさなことは考えていないと言っていましたが、本当はこの業界で一番動いている人なんですよ。実は僕、3月7日のサウナの日から、サウナ大使をさせてもらっているんですけど、このお膳立てをしてくれたのも濡れ頭巾ちゃんなんです。フィンランドのサウナに欠かせないヴィヒタを日本でも作ろうと動いていたり、サウナ普及のことメチャメチャ考えてる(笑)。他にも色んなことを虎視眈々と計画している人なので、今後の彼の動向にもぜひ注目をして頂きたいですね