MENUCLOSE

未知との出会い

株式会社モエ・ジャパン代表取締役・もふくちゃんさんが、
マネージャー/ベーシスト・劔 樹人さんに聞く、
「アーティストのマネジメント術」

今回カンバセーションズに参加してくれるのは、秋葉原にある萌え系ライブ&バー「ディアステージ」や、アニソンDJバー「MOGRA」を運営するモエ・ジャパンの代表を務め、アイドルグループ「でんぱ組.inc」をはじめアイドルのプロデュースなども手がける"もふくちゃん"こと福嶋麻衣子さん。そんな彼女が今回インタビュー相手として指名したのは、バンド「神聖かまってちゃん」「撃鉄」のマネージャーであり、さらに自らもベーシストとしてさまざまなバンドに参加してきた劔 樹人さん。さまざまなメディアで話題をふりまき、さらに元"アイドルヲタ"という共通点を持つふたりの対話は、果たしてどこに向かうのでしょうか?

もふくちゃん
マネージャーってどんな仕事ですか?

まず最初に聞きたいんですけど、劔さんは、神聖かまってちゃんや撃鉄のマネージャーという肩書きでいいんですか? それともプロデューサー?


劔:僕はもともとマネージャーとしてスタートしたんです。でも、最近は会社の若手がマネージメント的なことをやってくれるので、僕は次第にやることがなくなって、気づいたらメンバーのやりたいことをやってあげるだけの人になっていて(笑)。メンバーの送り迎えばかりしているので、マネージャーでも、プロデューサーでもなく、「運転手」なのかもしれない(笑)。

そうなんですか?(笑) でも、みんなが口を揃えて「劔さんじゃないと務まらない」と言っていますよ。じゃじゃ馬をならすコツのみたいなものがあるんじゃないですか?

劔:買いかぶりだと思いますよ。仮に僕が死んでも問題なく回るんじゃないかなと。

そんなことないと思いますけど(笑)。私が最初に剱さんの存在を強く意識したのは、「ももクロ」と「かまってちゃん」のツーマンライブの時で、の子さんが投げたギターとかを全部剱さんが回収していて、スゴいステージに出ているんだなって。表には出てこないけど、メンバーのような感じでやっているんだと印象に残ったのを覚えています。

劔:いまだにあの反応は僕が一番早いと思います (笑)。彼がどうしたいのかが一番わかるのは僕なのかもしれないですが、それは付き合いの長さの問題だと思います。の子くんは千葉に住んでいるので、基本的には普段は電話なのですが、やっぱり送り迎えがあるので(笑)。車で片道2時間くらいかかるので、その時に話したりする時間が大事なんですよ。まぁ言っても、男同士ですから、くだらない話ばかりですけど。

男同士ということを結構気にされますよね(笑)。

劔:メチャクチャ気にしますね。女性だとどうしても構えちゃうんですよ。今日も福嶋さんが相手なだけに、果たして自分の力を引き出せるか、いまスゴく不安なんです(笑)。

女の子の前だとまったくダメになる男の子、小学校の時にもいましたよね(笑)。

劔:やっぱりカッコつけちゃうから本来の自分じゃないんですよ。の子くんとかと接する時はなるべくオープンマインドにしていて、恥ずかしいプライベートとかも話すし、彼もそういう話をしてくれる。仕事相手ではあるけど、友達のような関係でいるようにしたいと思っています。本当にどうでもいいことしかしゃべらないんですよ。


もふくちゃん
人の懐に入るコツはありますか?

「かまってちゃん」との出会いはどういうきっかけだったんですか?

劔:最初にネットで見て、ライブに行ってこちらから声をかけたんです。でも、そんなの絶対怪しまれるじゃないですか。だから、最初からマネージャーという感じではなく、良いイベントの話を振ってあげて、そこに一緒についていくという感じでしたね。

神聖かまってちゃん Photo:佐藤哲郎

餌付けスタイル!(笑)

劔:ホントそういう感じなんですよ。経験がないからやり方もわからなかったですし。撃鉄の場合は、もともと友達だったんですが、「かまってちゃん」の実績があったので、同じような感じで一緒にやらないかって誘って。

神聖かまってちゃん Photo:佐藤哲郎

面白い入り方ですよね。懐に入るのが上手いというか、基本的にスゴく腰が低いですよね(笑)。「自分なんて」みたいな(笑)。

劔:最近、「お前、自虐はもう古いぞ」って言われるんですよ(笑)。でも、やっぱり自分に自信がないので、人と一緒にやるしかないんですよね。その人の良い部分を活かせるような仕事をしていけたらいいなと。

でんぱ組.inc
秋葉原にある萌え系ライブ&バー「ディアステージ」。

「でんぱ組.inc」のメンバーや、ディアステージに集まっている子たちを見ていると、みんな自信がある大人がキライなんですよね。ドヤ顔で来る偉そうな人たちを見ると、心のシャッターが一気に閉まる音がする(笑)。一方で劔さんのような人だとスゴイ勢いでシャッターが解放されるというか、「大人じゃない」と思えるのかなって。

劔:僕なんか逆に肩書きにスゴく弱いですけどね(笑)。「え、そんなスゴい人なんですか!」って(笑)。最近気づいたんですけど、男前にできないことでも、顔が悪いことによってやりやすくなることってあると思うんですよね。

そんなに言うほど変な顔じゃないですよ(笑)。イケてますよ!

劔:やいや、親からも変な顔って言われてますからね。そこにあぐらをかくわけじゃないけど、大人になってくると、変な顔なりの生き方っていうのを見つけていくんですよ。逆に福嶋さんの場合、女性でもあるし、ビジュアルが良いことによって苦労したことありませんか? キレイな人はなかなか実力を認めてもらえなかったりしますよね。

よく「裏に誰かいるんでしょ?」とは言われます(笑)。でも、最近は逆にそう思われていた方が楽だなと。バックに誰かいると思われていると、変な人が寄ってこないんですよ。

もふくちゃん
なぜアイドルヲタになったのですか?

劔さんは「あやや」の話などもよくしていますよね。こうやってお話をしていると、いまでもアイドルヲタの気質が8割くらい残っている気がします(笑)。女性がそんなに得意じゃないっていう前提があるから、スゴく真摯だし(笑)。

劔:気質で言えば僕はそもそもただのアイドルファンなので、あくまでもファンとスターの関係性を大事にしたいと思うんですよ。バンドのファンとかでも、メンバーと友だちになりたいという若い子はいるけど、「それならお前がここまで上がってこいよ!」と言いたいですね。

最近は演者とファンの距離がスゴく近いですよね。「ニコ動」とかでも身近な存在だから好きだけど、売れてしまうともう好きじゃないみたいな感じがありますよね。

劔:僕はいま、昔憧れていた人とも会おうと思えば会えるような仕事をしているけど、距離感だけは失いたくないなと思っています。あと、いま「あやや」の復活を願っているんですけど、そのためには自分ががんばらないといけないかなって。

松浦亜弥に似合う男になると。

劔:そこまで言うとおこがましいですけど、力を貸せるくらいの力はつけないといけないんじゃないかなと。でも、基本的には一ファンとして応援するしかないので、微力だけどその立場は崩さないようにしたいですね。一時期自分の仕事が忙しくなったこととかもあって少し離れてしまったんですが、それをいま取り返そうと思っているんですよ。

バンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」のベーシストとしても活躍している劔さん。 Photo:鳥居洋介

劔さんは「あやや」からアイドルに入っていったのですか?

劔:僕は啓示を受けるように「あやや」を好きになったんですよ。当時は就職もしていなかったし、生活もバンドもうまくいかず、スゴく落ち込んでいたんですね。ひとり真っ暗な部屋で、早川義夫さんの「サルビアの花」を聴いていて、それを見つけた友達がマズイと思ったのか、色んなミュージックビデオとかのデータを入れたCDRを、うちのポストに放り込んでくれたんです。その中にあった「あやや」を見て泣いてしまって…。「僕は何やってるんだろう。がんばらないと」って。それから性格も変わって明るくなったし、アイドル好きの友達ができて、オタクネットワークが広がっていきました。当時好きだった音楽は、アバンギャルドやノイズ、ガレージ・パンクとかだったんですけど、一気に振り切れて、楽しい音楽しか聴かなくなったんですよ。

アイドルってスゴいですよね。ダメな男たちに勇気を与えるというスゴい社会的役割がありますよね。

劔:本当にそうですよね。かつて「あやや」や「ハロプロ」に勇気をもらった人が、いま音楽業界にいるわけですからね。前に、ハロヲタをずっとやっていたレコード会社の人が、「あやや」と一緒に仕事をすることになったんですけど、「自分行けません」と言って他の人に代わってもらったらしいんですよ。自分も含めそういうダメなヤツは多いんですけど(笑)、彼らがいま新しいアイドルを作ったり、音楽業界を支える存在になっているというのは素晴らしいですよね。

もふくちゃん
アイドルを取り巻く状況はどう変わりましたか?

最近はアイドルを聴きながら色んなジャンルの音楽も聴くというのが一般的になりましたけど、当時アイドルヲタはマイノリティで、完全に迫害されていましたよね(笑)。

劔:僕もライブハウスとかで、隠れキリシタンのように仲間を見つけるのに必死でしたね。「あれ? エフェクターボードに『ガッタス』のステッカーが貼ってある!」とか(笑)。

「でんぱ組.inc」

どうしてこういう流れになったんだと思いますか?

劔:やっぱりパフュームがロックファンを取り込んだのが大きかったんじゃないですかね。あとはそれこそ「でんぱ組」は一番振り切ったところまで行ったんじゃないかと。最近はバンドのヤツらにもアイドル好きが増えたし、「ももクロ」なんか女性ファンもスゴく多いですよね。いまはアイドルのライブ会場にオシャレな人も多いけど、昔は自分も含めて「この男たち会場ごと燃えちゃえばいいのに」と思うような場所でしたよ。

「ハロプロ」のファンは個性的な人が多かったですよね。ただのヲタなのにみんなに知られているみたいな(笑)。むしろ最近は、普通にカッコ良い人やオシャレな人も多くて、どこよりも人種のるつぼ感がありますよね。少し前までは、似ている格好をしている人同士は友達だという文化があったけど、いまは外見ではまったく見分けがつかないんですよね。ひとつの共通の話題のもとに色んな人種の人たちが仲良くなれるという意味では、実は世界平和の第一歩なんじゃないかって。

劔:ですよね。「でんぱ組」のライブに行っても可愛い女の子が多くて、なんでかわからないけどだんだん悲しくなってきて…(笑)。でも、スゴく良い時代になりましたよね。

いままでアイドルのプロデューサーは男性だったけど、私は女のアイドルヲタだったから、そういうのを見て、「この子たちは大人の男たちにやらされているところがあるんじゃないか」ってスゴく気になっていたんですよ。「本当はこういうこと言いたくないんじゃないか」とか。だから私は、女のアイドルプロデューサーとして新しい何かを築きたいなって思っているんです。ヲタが憧れる神聖な花園を作りたいなって。

劔:そういう意味では、つんく♂さんとかは女心が分かっているなと感じます。あれだけ女性に囲まれているのに、お見合いで結婚したというのも、スゴく好感度を上げましたよね。有名人こそお見合い結婚するべきだと思いましたよ。

もふくちゃん
何を目指してやっていきたいですか?

「バンドじゃないもん!」は女の子だし、劔さんが関わっているバンドの中では、ちょっと異質ですよね。

劔:そうですね。昔もいまもそうですが、いつかアイドルをプロデュースしてみたいという気持ちがあるんですよ。その最初のきっかけのような意識は少しありますね。

今後はどんなことをやっていきたいと思っていますか?

劔:アイドルに勇気づけられたことによって、いまの自分があるので、自分もくすぶっている男の子たちのハートに火をつけるようなことをやりたいなと思っています。それが何かはわからないけど、自分のプライベートをいくら切り売りしてでもそういうことをやっていきたい。「やっぱりオレはダメなんだ」と思っている若い子たちに、「ガッツがあればいけるんだ!」と伝えたいんです。

Photo:鳥居洋介

ベーシストとしての活動は続けていくのですか?

劔:何をやっていようが、ベーシストは続けているのかなと思っています。これまで僕は何も目標なく生きてきたんですけど、その中で漠然と思っていたのは、自分の名前で仕事をしていきたいということなんですね。だから、特に何かひとつに絞ってやっていこうというのはあまり思っていないですね。

そこが劔さんの面白いところですよね。私の場合はプロデューサー色が強まってしまっていてちょっとイヤなんです。私も劔さんのように何をやっているかわからない謎のポジションを獲得したい (笑)。

劔:福嶋さんは元々現代音楽をやっていたらしいし、また謎のノイズ楽器を作ってみたりしたら面白いんじゃないですか?

そうですね。もともとそういうことをやっていましたからね。私は、色んな音楽を聴いていくうちに、自分の音楽の才能がこのくらいだというのがわかってしまって、それでやめちゃったんですよ。でも、18歳くらいでメルツバウのライブに一人で行っていたくらいノイズは一番ハマっていたことだったので、何かやりたいですね。

劔:僕も最初はノイズバンドだったんですよ。メンバーに「大太鼓」とかがいて、そういう楽器を持ち込んでスゴく大きな音を出すバンドでした(笑)。

ノイズバンド面白そうですね。いつか劔さんとノイズバンドを結成することを私の夢にします。

劔:やりましょうよ! あ、でもメンバーに女性がいると…。しかも福嶋さんが同じバンドにいたら相当意識しちゃうと思うんですよね。「オレ今日ちゃんと風呂入ったかな」とか。…でも、もうオレも大人なので、ぜひやりましょう!<インタビュー終わり>


インタビューを終えて

インタビューの中でも話しましたが、劔さんって何をやっている人なのかわからないところがあるんですよね。でも、面白いところには必ず劔さんの名前が出てくる。私もそういう存在を目指していて、今日はそのヒントを探れたらなと思っていました。
お話を聞いていて、劔さんのマネジメント法というのは、私のディアステージのマネジメントに近いと感じました。ディアステージと『でんぱ組.inc』のマネジメントの仕方は全然違っていて、ディアステージはサファリパークのように『この柵の中なら何してもいいよ』という感じで、野生のまま放牧をしているんですね。だから怒らないし、厳しいことも言わない。『でんぱ組.inc』も最初はそういう感じでやっていたんですけど、ある時に壁にぶち当たって意識的にそれを変えたんです。アイドルって体育会系的なノリでやらないと育たないところがあって、最初は慣れなかったけど、そうするようにしたら最近はやりやすくなってきた。でも、ゆとり世代の子たちからしたら、本来は劔さんの放牧スタイルというのがいいのかなということを感じたりしました。
今後劔さんのような新しいカタチのプレイング・マネージャー的な存在の人たちがどんどん出てくるといいし、私もそうなれたらなと改めて思いました。早く剣さんみたいな謎の人間になれるように(笑)、これからもがんばります!