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「問い」をカタチにするインタビューメディア

発想とカタチ

NOSIGNER代表・太刀川英輔さんが聞きたい、「進化思考を世界にインストールする方法」

NOSIGNER代表・太刀川英輔さんが、
「ティール組織」解説者・嘉村賢州さんに聞く、
「新しい概念や手法を世界に広げるために必要なこと」

生物の進化におけるプロセスと、イノベーションが生まれるメカニズムに共通点を見出し、社会を変革するイノベーターのための発想法「進化思考」を体系化したデザインファーム・NOSIGNER代表の太刀川英輔さん。この進化思考をより多くの人たちに使ってもらえるツールにしていくことをテーマに掲げた太刀川さんのインタビューシリーズの1回目に登場するのは、ファシリテーターとして組織開発やイノベーション支援などをテーマにしたワークショップを多い時には年100回以上も行っていたという場づくりのスペシャリストであり、日本に「ティール組織」という組織論を広めた立役者でもある嘉村賢州さん。進化思考のワークショップ開発でも協働している嘉村さんに、太刀川さんが聞きたいこととは?

太刀川英輔
進化思考にはどんな可能性がありますか?

もともと進化思考は、優れたアイデアが生まれるメカニズムを自分のために解き明かしたいということが発端になっています。そして、そのメカニズムやプロセスを他人とも共有し、同じゴールを目指すというのが進化思考の目指すところで、これは嘉村さんが専門とする集合知やコ・クリエーション、組織論などにも関わってくる話だと思っています。実際に嘉村さんには進化思考のワークショップづくりにも協力して頂きましたが、改めて進化思考をどう捉えているのかを伺ってみたいです。

嘉村:僕が研究しているファシリテーションの世界には、議論は見える化しながら行うという基本的なテクニックがあります。例えば、議論の内容をホワイトボードや模造紙に書きながら話を進めていくのと、参加している人たちそれぞれが頭の中だけで内容を整理し、議論を進めている状態では、場の創造性が圧倒的に変わるんですね。あらゆる角度から社会の「関係」を洗い出した上で、さまざまな「変異」のアイデアを出していく進化思考というのは、軍師たちが敵軍の状態を整理した地図を真ん中に置いて知恵を出し合う状況に近く、変化が激しいこの時代にイノベーションを生み出す有効なツールなんじゃないかと感じています。

逆にいまの進化思考に足りない点や弱みだと感じる部分はありますか?

嘉村:弱みというよりは、伸びしろと言った方が良いと思いますが、現在の進化思考のワークショップは、各プロセスにおいて論理的思考能力や発想力が高い人がパフォーマンスを出しやすいところがありますよね。つまり個人差が出やすいということですが、例えばもう少し身体性に寄ったワークショップ手法や、グランドルールを明確にして初心者でも取り組みやすい対話による創発ができると、より多くの人にとってイノベーションやアイデアを生み出すツールになり得るのではないでしょうか。

まさにそうした部分も踏まえて、今後いかにこの進化思考を広く使ってもらえるようにできるかということが大きな課題だと感じています。

嘉村:ヴィパッサナー瞑想というミャンマーで復活し、世界中に広がっている仏教の瞑想法がありますが、これは現在も昔から全く変わらないやり方を守り続けているんですね。一方で、仏教というのは、解釈やアレンジが割と自由で、実際にさまざまな流派がありますよね。進化思考に関しても、ある程度アレンジが可能な仏教と、変わらないやり方を続けていくヴィパッサナー瞑想のどちらの方向に広げたいのかというところがまずは考えるべきポイントかなと。また、現代の組織論に話を移すと、ホラクラシーという組織運営の手法があって、これはクリエイティブ・コモンズで誰もが自由に発展させることができるのですが、進化思考についてもこうした広げ方をすることもあり得るのかもしれないですね。

僕自身、プロジェクトをオープンソースにしていくことはよくやっているので、進化思考もどこかのタイミングでそれをしてもいいのかなと考えています。同時に、誤解されたまま薄くコピーされて広がっていくというのはあまりうれしいことではなく、その辺の判断がなかなか難しいところなんですよね。

太刀川英輔
どんなプログラムをつくるのが良いですか?

進化思考のワークショップに参加してくれた方たちは、その有用性を実感してくれるのですが、日常に戻った後も同じ頭で考え続けてもらうことはなかなか難しいと感じています。そういう意味では、進化思考を「考え方の癖」をできるようなイノベーターのための道場のような場があると良いのかなと漠然と考えています。

嘉村:そういう意味で進化思考というのは、「ワールドカフェ」のように決められたルールに則って進めれば誰もがすぐに使えるものとは少し違い、華道や茶道など修行が必要な「道」に近いものなのかもしれないですね。そして、その道場において大切なことは本当にイノベーションを生み出したい人が参加することだと思います。例えば、企業の新規事業や新商品の開発者だけが集まる10人くらいの学校というのを続けていくというのも面白いかもしれません。

太刀川さんが提唱する「進化思考」を実践するワークショップの様子。

そうですね。僕らは、新規事業開発のコンサルティングを依頼されることも多いのですが、クライアント企業の担当者をしばらくお預かりし、進化思考のプログラムを運用しながら何かを生み出していくこともできそうな気がします。実地で訓練した方が力もつきますし、イントレプレナーを育てる修行道場のような仕組みがつくれると良いですね。ちなみに、そのような場で進化思考を自分のものにしていくプログラムを嘉村さんがつくるとしたら、どのくらいの期間が必要になりそうですか?

嘉村:まずはじめに、「関係」と「変異」の連続性に価値があることを知ってもらうプロセスがあり、その上で「関係」と「変異」の各ワークをひと通りやってみるのが次のプロセス。さらに、各ワークの精度を磨くとともに、これらを組み合わせて質の高いアイデアを出せるようになるための最後のプロセスを合わせて、およそ半年くらいですかね。ただ、考え方として、必ずしもすべてを一人でできることにこだわらなくても、チーム内に「解剖」が得意な人、「系統樹」が得意な人などがそれぞれいれば良いとも言えます。そういう意味では、例えば「関係」の中のワークのひとつである「系統樹」について、あなたは師範代ですといったバッジを各人の習熟度に合わせて付与していくのもいいのかもしれません。

たしかに、一連の進化思考のプログラムの中で自分は何が強いのかということを知ることは重要ですし、それによってアーティストとキュレーターのように補完し合う関係性も築けそうですね。

嘉村:あと、こだわった方が良いのは、最終のプロダクトを出すことです。すべてのカリキュラムをクリアすれば良いのではなく、実際に何かしらのイノベーションを生み出して初めて師範代になれる。例えばファシリテーションの講座において、わかりやすく手法を伝えるプログラムを提供している先生が、理論には詳しいけど、リアルな現場でのファシリテーション経験が少ないため、具体的な質疑応答に明確に答えられないケースは少なくありません。イノベーション系のワークショップも何より「結果」が求められるべきですし、仮にこの道場を通して、1~2年の間に世の中にインパクトを残すものをいくつか生み出すことができれば、進化思考の広がりは加速するんじゃないでしょうか。

太刀川さんによる「進化思考」のワークショップづくりをサポートした嘉村さん。ディスプレイに映っているのは、嘉村さんがサンプルとして描いた「学びの場」の系統樹。

太刀川英輔
アイデアの実現を妨げるものは何ですか?

発想を形にしていく段階では、行動をし続ける人が強いという話があると思うんですね。つまり、進化思考でせっかく良いアイデアが生まれても、その人の行動力次第で形にならないこともあり得る。もしかしたら、進化思考の発想法としての有用性を示すということを考えると、社会を進化させるためのアイデアとして知財開発にひたすら取り組むラボというあり方も面白いのかもしれないと思いました。

嘉村:そうですね。また、そもそもイノベーションというのは8割くらいの人が反対するほど議論が巻き起こるものだと仮定すると、保守的な組織構造や意思決定システムを持つ企業ほど、前例のないアイデアが潰されてしまう可能性が高まります。進化思考というのは、過去の文脈や周囲の環境など「関係」を把握した上で、「変異」を起こすアイデアを出していくというイノベーション作法なので、反対の割合はある程度下げられるとは思いますが、それでも大企業の意思決定システムなどはなかなか難しいところがありますよね。

種を次世代に残すための「変異」と、外界との「関係」によって起こる淘汰を繰り返してきた生物の進化のプロセスに倣い、たくさんのアイデアを出していくプロセス「変異」と、そのアイデアを発信していく社会の環境を把握するプロセス「関係」を往復しながら、アイデアの強度を高めていくのが進化思考のやり方だ。

それはよくわかります。反対意見自体が悪いわけではなく、理由なき反対をしないことがポイントだと思うんですね。否定の理由が理にかなっていれば、それはアイデアをブラッシュアップする手助けにもなるし、社会の環境や歴史的文脈、あるいは望ましい未来と乖離しているアイデアが淘汰されるというのは本来しかるべきことなんです。スクリーニング力がなければ良いアイデアは生まれないし、悪いアイデアを排除していけるような共通のものさしは必要だと思ってて、進化思考はそのツールでもあるという自覚があります。組織においても、理由がわからないままアイデアが否定されてしまうような構造は変えていくべきだし、進化思考を普及させていくためには個人の行動力の話だけではなく、こうした組織のあり方などについても考慮する必要がありそうですね。

嘉村:そういう意味でも先に少し触れたホラクラシーは秀逸で、会議の場で説明責任を求められるのは、何か新しいことをやりたい人ではなく、それに対して反対意見を言った人なんです。会議で誰かがあるアイデアを提案すると、それに対する反対意見が色々出るわけですが、ホラクラシーではそれを受けてファシリテーターが反対意見をひとつずつ精査していくんです。その上で、仮にそのアイデアが失敗した時に多くの損害を生んでしまったり、取り返しがつかなくなるということを証明できない反対意見は却下されていくんです。

それはとても面白いし、理にもかなっていますよね。自分とは違う「関係」が見えている人による反対意見というのは、先にも話したように淘汰の目を広げることになるんですよね。理由が明確な反対意見は、アイデアをスクリーニングしてくれますし、素晴らしい仕組みだと思います。

嘉村:自分のアイデアを守ってくれる仕組みがあるホラクラシーにおいては、反対意見が全く怖くなくなるし、冷静な状態で反対意見が聞けるんです。それによって、提案者のアイデアやプランは必ずといっていいほど変わり、アップデートされていくんです。これこそまさに集合知の力ですよね。

嘉村さんが解説者として、日本における認知・浸透を後押しした「ティール組織」は、従来の組織とは大きく異なる組織構造や慣例、文化を持つ次世代型の組織モデル。エグゼクティブ・アドバイザーやファシリテーターとして活動するフレデリック・ラルー氏が、組織モデルや意識の発達段階を色で分別し、次世代型の組織を「ティール」(青緑色)としたことから、その呼称が広がった。マネジャーやリーダーなどの役職が存在しないフラットな組織構造を持ち、全メンバーに平等に権限と責任が与えられ、生命体や生物のように機能することが特徴とされている。

太刀川英輔
ティール組織はなぜ広がったのですか?  

いま、ホラクラシーやティールを導入している組織がどんどん増えている状況だと思いますが、広がっているポイントはどこにあるのですか?

嘉村:理由は大きく2つあります。ひとつは、これまで多くの人が感じていた組織における違和感に対して、従来のような機械的ではなく、より生命的・有機的な形を指し示している思想の部分への共感、もうひとつは実際に取り入れている企業や事例がすでにあったということです。その上で、ティール組織実現に一定の割合で使われているホラクラシーなどは、先ほどお話したクリエイティブ・コモンズや、認定制度、講座などを通して広がっているという状況です。ただ、ホラクラシーはティール組織を実践している組織の一部でしか使われていないですし、日本においてはティール組織が一気に広まったことで、表層な理解や誤解も多く生まれてしまっていることも事実です。

1冊の本を分担して読んでまとめる、発表・共有化する、気づきを深める対話をする、というプロセスを通して著者のメッセージを深く理解し、能動的な気づきや学びにつなげる新しい読書法「アクティブ・ブック・ダイアログ」。嘉村さんが代表理事を務めるNPO法人「場とつながりラボ home's vi」も法人パートナーとして名を連ねているこの読書法は、オンラインで無料マニュアルが配布され、学校の授業から企業の研修、書店や図書館までさまざまなシーンや場所で実践されている。

そういう意味では、進化思考と同様に、ティールやホラクラシーにも本来は修行が必要な「道」に近いところがあるのかもしれないですね。最初の話に戻りますが、ポイントはそれをどのように伝えていくのかというところなんでしょうね。進化思考というのは、13種類くらいのワークショップが集まってできているようなところがあるのですが、情報量が大きいものはなかなか受け取ってもらいにくい時代において、進化思考の各工程を個別のワークショップとして切り出していくようなことも必要なのかもしれないですね。実際に先日、進化思考の「未来予測」の部分を切り出したワークショップを開発したのですが、これがなかなか評判で、目に見える効果もありました。

嘉村:たしかに、進化思考を象徴するようなキャッチーなワークショップがあっても良いですよね。そうしたワークショップを効果的に広げていく上では、「手法の求心力」を利用する方法と、「場の求心力」を利用する方法がそれぞれあります。例えば前者としては、進化思考のワークショップに参加すると自分がこれまで考えていたものがその場で形になったり、思いがけない変異が生まれるというところに価値をつけていくようなつくり方があると思います。一方で場の求心力を利用したワークショップとしては、先にも少し話した「ワールドカフェ」や、いま僕が関わっている「アクティブ・ブック・ダイアログ」という読書法などがあり、これらはその場自体が楽しいから口コミで広がっていくところがあるんです。「修行道場」的な方向性の他に、こうしたワークショップをつくり込んでいくのも良いと思います。

進化思考のワークショップも嘉村さんと話しながらブラッシュアップしていったように、ワークショップ開発を一緒にできるような仲間がいると僕も心強いです。

嘉村:いまの進化思考はファシリテーションにしてもレクチャーにしても、太刀川さんありきで成り立っているところがありますが、それこそ集合知的にワークショップの設計を考えていける仕組みやチームがあると良いですよね。「#変異」「#系統樹」「#未来予測」など進化思考のワークにまつわるハッシュタグに、さまざまなワークのアイデアやプラクティスが集まってくるような仕組みができたら面白そうです。そうした進化思考から派生した無数の解釈と、太刀川さんが体系化した聖書としての進化思考が共存しているという関係性が良いのかもしれないですね。


インタビューを終えて

組織づくり・教育・対話型ワークショップの文脈における第一人者として、僕もプロジェクトでよくお世話になっている賢州さんですが、ゆっくりと深いところまで掘り下げて話をさせていただく機会は少なかったので新鮮でした。歴史的文脈を踏まえて進化思考の価値を話してくれたのはさすがです。
ティール組織などの国際的なムーブメントの広がりと対比しながらお話を伺えたのは、とても貴重でした。これからの進化思考の広がりを考える上で、さまざまなインスピレーションを得られたインタビューとなりました。