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「問い」をカタチにするインタビューメディア

発想とカタチ

NOSIGNER代表・太刀川英輔さんが聞きたい、「進化思考を世界にインストールする方法」

NOSIGNER代表・太刀川英輔さんが
「進化思考を世界にインストールする方法」について聞きたい理由

東日本大震災直後にリリースされた、災害時に有効な知識を集めて共有するwikiサイト「OLIVE」や、オープンソースの思想に基づいたオフィスデザインが話題を集めた「Mozilla Factory Space」などで知られるNOSIGNERの太刀川英輔さん。カタチの背景にある目に見えない関係性を構築することを掲げ、建築、プロダクト、グラフィックなど幅広い分野で、これからの社会にとって必要なデザインを提供してきた太刀川さんは近年、社会を変革するイノベーターたちを増やすことを目的にした発想法「進化思考」を掲げています。この進化思考を世界に広げていくことをテーマに、太刀川さんがさまざまな分野のスペシャリストたちにインタビューを行います。

今回のカンバセーションズのインタビューでは、どんなことをテーマにしたいと考えていますか?

太刀川:僕たちはさまざまなデザインの仕事をしていますが、その背景には、社会を良い方向に変えていこうとしている人たちの武器になるようなものをつくりたいという思いがあります。さらに言うと、ソーシャルイノベーターやチェンジメーカーと呼ばれるような人たちをもっと増やしたいと考えています。それを実現するための活動として、ここ数年「進化思考」という発想の方法論をまとめ、企業や大学でワークショップなどを行ってきました。支持してくださる方たちは少しずつ増えているのですが、進化思考をより広い層に伝え、実践してもらえる状況をつくるためにどうすれば良いのかということを、カンバセーションズのインタビューを通じて考えていきたいと思っています。

いわゆる「アイデア発想法」的なものががすでに数多くある中で、進化思考を体系化しようと考えた背景には、どんな問題意識があったのですか?

太刀川:個人的に、数多あるアイデア発想法やイノベーターの教育プロセスの中には、良いアイデアが生まれる構造を客観的に説明していたり、本当に世の中を変えるイノベーションを生んでいると思えるものがないと感じていました。また、15年近くデザインの仕事をして気づいたのは、素晴らしいアイデアというのは強度があるだけではなく、社会からの要請にもしっかり応えているものだということでした。傾向として、デザイナーは表現の強度を求める一方、社会への理解が十分ではないことがままあり、逆に積極的に社会に対してアクションしていこうとする人たちには、強いアイデアや表現というものに関心がなかったり、あきらめてしまっている場合が多く、どちらもクリエイティビティを十分に使い切れていないように感じていました。だからこそ、この進化思考を通して、強度があり、かつ社会に対しても良いということを両立したアイデアを生み出せる人を増やしたいという思いがあるんです。

進化思考はどういった内容のものなのですか?

太刀川:優れた発想やイノベーションが何に似ているのかということを考えているうちに、生物の進化にかなり近いのではないかと思うようになりました。進化というのは本来、生物がさまざまな変異を経て新しい状態になることを指す言葉ですが、例えば僕たちはスマートフォンを見て、「携帯電話が進化した」と言ったりしますし、これまでに僕が出会ったイノベーターたちの思考パターンというのも、進化のプロセスと重なり合うところがあると感じていました。それにもかかわらず、生物の進化のプロセスとイノベーションに共通するパターンを見出し、良いアイデアが生まれる構造を体系化して伝えたりしている人を知らなかったので、それを自分でしようと思ってまとめたのが、進化思考なんです。

生物の進化のプロセスというのは、具体的にはどんなものなのでしょうか?

太刀川:進化のプロセスは、種を次世代に残すための「変異」と、外界との「関係」によって起こる淘汰の繰り返しだと言えます。それと同じように優れた発想も、「変異」と「関係」の往復の中で生まれるものだと思っています。大まかに説明すると、進化思考における「変異」とはたくさんのアイデアを出していくプロセスで、「関係」はそのアイデアを発信していく社会の環境を把握するプロセスです。「変異」のプロセスではある種バカになることが必要で、一方の「関係」のプロセスにおいては知性が求められます。バカと天才は紙一重とはよく言ったもので、本当に世の中を変えるアイデアはこの2つの間にしか生まれ得ないと思っています。そして、これらふたつのプロセスにはまったく別のスキルが求められ、大抵の人はどちらか一方のみが得意だったりします。進化思考というのは、この異なるふたつの知恵を両方使いこなせるようになり、両者の間を往復させながらアイデアを醸成していくための方法論なんです。

この進化思考を普及させていく上では、どんなことが課題になると感じていますか?

太刀川::進化思考を取り入れてくれた企業の反応はすこぶる良く、ワークショップでもさまざまなアイデアが生まれているのですが、その後も継続的に進化思考的な視点で世界を見続けてもらうのはなかなか難しいことだと感じています。例えば、お寺で一日修行を体験すると心が洗われますが、その後も信心を持ち、自分を律して求道できるかというのはまた別問題で、それはその人次第という話に近いかもしれません。そういう意味では、進化思考を自分の考え方の癖のようにしていくための長期的なスクールのようなものなど、何かしら習慣化のプロセスを設計することも必要なのかもしれません。また、まずは進化思考の考え方をより多くの人に伝えていくという意味で、出版化やオンライン上での発信というアプローチも当然考えていくべきことだと思っています。

カンバセーションズでは、どんな人たちにインタビューをしてみたいと考えていますか?

太刀川:すでに進化思考に共感してくれている仲間のような人たちがいるのですが、彼らには進化思考の価値や可能性について改めて聞いてみたいですね。例えば、進化思考ワークショップの発展に尽力してくれた協力者であり、『ティール組織』という書籍のエヴァンジェリストとしてその考え方を日本に広めた嘉村賢州さんに、コ・クリエーションの文脈から進化思考の重要性について聞いてみたいと思っています。他にも大企業のエグゼクティブ研修のプログラムを提供している方に、現在の大企業が抱える課題やそこに対する進化思考の可能性を伺ってみたいですし、地域活性に関わる活動をしている方とは、地域の未来をつくるために進化思考が役立てるのかということを話し合ってみたいと考えています。また、知の構造化という観点から進化思考をアルゴリズムにしたAIをつくりたいという目論見があるのですが、それについて以前に少ししたことがある人工知能の専門家にも改めて話を伺ってみたいですね。

進化思考ワークショップの様子。

これまで関係がなかった人たちに関してはいかがですか?

太刀川:進化思考を使ってもらいたいと思う人たちとはぜひお話をしてみたいですし、そこから何か新しいプロジェクトに発展していくようなことがあるとうれしいですね。また、進化思考は生物学をベースにしているところがあるので、生物心理学者をはじめとした研究者や専門家の人たちにもお話を伺うことで進化思考自体が進化していくようなことにも期待したいですし、論文などの形でこの考え方を広げていくということにも興味を持っています。その他にもTV番組の企画をしている方や漫画の編集者などマスに対してアプローチしている職種の方、教育プログラムを提供している方などにもインタビューしてみたいですね。

カンバセーションズとしても、この進化思考が広がるきっかけづくりの部分を少しでもサポートしていければと思っています。

太刀川::ありがとうございます。このインタビューを通じて、一人でも多くの仲間を見つけていきたいですね。最初の話に戻りますが、僕は社会を変えていけるようなイノベーターが世界中に500万人くらいいると良いと思っています。荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが、500万人というのは世界中の2000人に1人、つまりひとつの村に一人は社会を変えていける人がいるという計算になる。100年後の世界にも僕ら人間が生き残っているためには、そのくらいの数が必要だと思っているんです。