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「ゆっくり おいしい ねむたいな」代表・熊野森人さんが聞きたい、「幸せを数値化する方法」

「ゆっくり おいしい ねむたいな」代表・熊野森人さんによる、
「幸せの数値化」に向けた中間報告

食時間にフォーカスし、幸せを数値化することを目指している「ゆっくり おいしい ねむたいな」代表の熊野森人さん。これまでにカンバセーションズでは、お金や偏差値に代わる新しいものさしをつくることを理念に掲げる熊野さんとともに、5人のスペシャリストたちにお話を聞いてきました。独自のアプローチで幸せのメカニズムを探っている研究者から、食や最新テクノロジーを通じて、ユーザーや消費者に幸せを提供する事業を展開する方まで、多彩な面々との対話を経て、熊野さんの「幸せの数値化」プロジェクトはいま、どこに向かおうとしているのでしょうか? これまでのインタビューで得られたことや、今年予定をしているというプロジェクトの構想などを語って頂きました。

これまで熊野さんは5名の方たちにインタビューを続けてきましたが、振り返ってみていかがですか?

熊野:最初にインタビューした東京大学の光吉(俊二)先生をはじめ、慶応大学の前野(隆司)先生日立製作所の矢野(和男)さんという幸せ研究の最前線にいるような方々にお話を伺えたことは非常に勉強になりました。また、パン屋の蔭山(充洋)さんロボットをつくっている青木(俊介)さんに関しても、自分が考えている幸せのイメージや数値化に対する考えなどに賛同してもらえたり、思いもよらない発想や視点を提供してくれたりと、どのインタビューも実りのあるものになりました。

幸せを数値化するという当初の構想は、いまも基本的には変わりませんか?

熊野:はい。昨年参加したカンバセーションズのリニューアル記念イベントなどを通して自分のプランをプレゼンテーションしていく中で、ある程度の手応えは得られたのですが、同時に想像以上に賛否がわかれやすいテーマなのだということも感じています。当初は7:3くらいの割合で賛同してくれる方が多いとみていたのですが、蓋を開けてみると半々くらいの印象です(笑)。ただ、万人が良いと思うものであればすでに誰かがやっているだろうし、アンチが一定数いることも悪いことではないなと思っています。

たしかに幸せを数値化するということに対して、反射的にネガティブな反応を示す人も一定数いる印象ですが、しっかり説明をすれば理解してくれる方が多いように感じます。

熊野:そうですね。慶応の前野先生にインタビューをしている中で出てきた話だったと思いますが、数値によって他人と比較をするのではなく、体重計などに近いイメージで昨日までの自分と比べるための材料と捉える方向性が良いのだろうと現時点では考えています。

熊野さんが「幸せの数値化プロジェクト」についてプレゼンテーションしてくれたカンバセーションズのリニューアル記念イベント。

数値化の方法や事業のあり方などについて、具体的なイメージは見えてきましたか?

熊野:数値化の概念やルールを定める段階に、お金やビジネスの概念を持ち込むなという東大の光吉先生のお話を聞いてからは、短期的に事業化するのは難しいだろうと考えるようになりました。お金や偏差値に変わる人生のものさしをつくりたいという思いは変わらないのですが、仮に僕らが光吉先生や矢野さんたちと少し違うものさしを提案したところで、状況はあまり変わらないかもしれないとも感じています。いまは、自分が基準をつくることよりも先に、幸せの数値化という概念や哲学を社会に広くプレゼンテーションしていく方法を考えた方が良いかもしれないという思いが強いです。

そのためにはどんなアプローチが考えられそうですか?

熊野:例えばですが、2025年の大阪万博などの大きなイベントで、日本が研究を進めてきた幸せの指標というものをプレゼンテーションし、それを段階的に経産省などが取り入れていくというようなことが起こると、ドラスティックに広がっていく可能性はありそうですが、そうなるともはや国家プロジェクトですよね(笑)。でも、そのくらい大きな力が働かないと社会にインパクトを残すのは難しいだろうし、それはある程度時間がかかることなのかなと。とはいえ、そういうことが起こるまで悠長に待っていられないので、いま自分たちがやれることから始めようかなと思っています。その中でいま考えているアプローチというのは、幸せの数値化という考え方や研究過程から生まれた具体的な商品やサービスをつくり、それを最初の取っ掛かりにするというものです。

具体的には何をつくろうとしているのですか?

熊野:カレーをつくります。

カレー、ですか?

熊野:はい。カレーを食べると幸せになれるという話があるんです。カレーに使われるスパイスの効能などと関わる話だと思うのですが、これが科学的にどこまで実証されているのか、あるいは実証できるのかということを掘り下げていきながら、「美味しいカレー」ではなく、「幸せになるカレー」を製品化したいなと。どうしてもカレーじゃないといけないというわけではないのですが、なにかモノを媒介にすることで、幸せを数値化するという概念や現在の研究の成果などをまずは広く伝えたい。そしてその先に、実際に幸せの数値を測ってみるというアクションが起こるといいなと思っています。

そのカレーをつくるためには、どんなプロセスが必要になりそうですか?

熊野:まずは、トライアンドエラーをしながら、これが幸せに効くという科学的に実証できるデータをつくり、それをもとにレシピをつくっていくという流れになるかと思います。カレーのベースとなるスパイスの効能などについては文献などを当たればわかると思いますが、ハードルが高そうなのは、それが幸せに効果があったということを何を持って実証するのかということです。これまで、幸せを測るデータとして声や動作を用いている方たちにインタビューをしてきたわけですが、その他に幸せを測り得るセンサーとして、脳や大腸など人の器官というものもあるのではないかと考えていて、こうした分野の専門家にも近々お話を聞いてみたいです。

「美味しいものを食べると、幸せになる」という普遍的な方程式のようなものはあると思う一方、具体的に何がどう幸せに作用しているのかということを伝えていくのはなかなか難しそうですね。

熊野:そうですね。やみくもに「これがあなたの心にとても良い」という打ち出し方をすると、「これを食べると健康になる」というような数多ある健康食品と似たものになりかねないので、そこは気をつけないといけないと思っています。それこそ、健康というのも幸せの概念には不可欠ですが、「これを食べると健康になれる。ゆえに幸せになる」というステップを踏むのではなく、食べること自体を幸せに直結させたいという思いがあります。カレーに限らず、栄養素のようなものとは異なる観点で、食と幸せの関係について考えている人がいたら、ぜひお話を聞いてみたいですね。また、最近は個々の健康状態などにパーソナライズされたミールキットなども海外で流行っていて、今後こうしたニーズはますます広がっていくはずです。幸せということに関しても、万人の幸せを同時に実現するのは難しいので、それぞれの心の状態に合わせてカスタマイズされたモノやサービスを提供するというアプローチが良いのかもしれないということも漠然と考えています。

お話を伺っていて、食べることで幸せになる食品というアプローチの他にも、食べることによって個々の幸せの状態をリトマス試験紙のように測れる食品という方向性もあるような気がしました。

熊野:なるほど。たしかにそれも面白そうですね。前野先生が提唱している幸せの因子ではないですが、カレーを食べた後、チェック項目に印をつけていくことでその人の幸せの状態がわかるようなものだと、「幸せを測る」という概念もより明確になるかもしれません。その方向性、ぜひ深掘りさせてください(笑)。