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「問い」をカタチにするインタビューメディア

発想とカタチ

メディアアーティスト・市原えつこさんが聞きたい「来訪神をリデザインする方法」

メディアアーティスト・市原えつこさんによる、
次回作発表に向けた中間報告

「来訪神のリデザイン」をテーマに掲げ、次回作の構想を練っているメディアアーティストの市原えつこさん。カンバセーションズでは、そんな市原さんとともに、作品制作におけるインスピレーションやヒントを与えてくれそうな各界のスペシャリストの方たちへのインタビューを重ねてきました。これまでにアーティストの和田永さん、民俗学者の畑中章宏さん、プロダクトデザイナーの山中俊治さんの3名へのインタビューを敢行してきた彼女は、対話を通して何を得ることができたのでしょうか? 今回は、2019年中に作品発表をすることが決まり、制作のピッチを加速させている市原さんの中間報告的なインタビューをお届けします。

これまでカンバセーションズでは3人にインタビューしましたが、それぞれを振り返って頂けますか?

市原:最初にインタビューした和田 永さんには、さまざまな面でインスパイアされました。和田さんは、自分の世界観に固執し過ぎず、緩やかにコミュニティを形成しながら外に広がっていくような制作をされていて、しかも作品の濃度がしっかり保たれていることが素晴らしく、自分がその境地に達するためにはもっと修行を重ねなくてはいけないと感じました。そして、何よりもインタビュー中に出てきた「ムラ」というワードに惹かれました。現代の社会では、グローバルスタンダードや倫理観などが重視されがちですが、ローカルなムラのようなコミュニティを形成することで、ある種治外法権的に色々な要素をフィルタリングした場がつくれるように感じました。実はこの後に、某大学で「ムラ」をテーマにしたワークショップをする機会があったのですが、例えば、いわゆるキラキラ女子大生っぽい女の子が「美容の神が宿っている村では美を象徴する女神像が崇拝されストイックに美を高め合い、顔面偏差値90以上じゃないと入村できない」という構想を出すなど、人によってさまざまなムラのイメージが出てきてとても興味深かったです。

民俗学者・畑中章宏さんのインタビューでも、「ムラ」のような「小さな共同体」の話が出てきましたね。

市原:そうですね。畑中さんのインタビューでは、これまでに自分の作品で扱ってきた霊的な存在をマッピングすることができました。例えば、「デジタルシャーマンプロジェクト」では「個人霊」、「都市のナマハゲ」では「祖霊」というものを私は扱っていて、次の作品では、祝祭や儀式的なものを通して、その土地にこびりついているような「集合霊」の浄化をしたいのだと思います。畑中さんのお話は、ググってもすぐに出てくるような類のものではなく、自分が知りたいことをピンポイントで説明してもらえたので非常にありがたかったです。

生命というテーマとの向き合い方が主題になった山中俊治さんのインタビューについては、いかがでしたか?

市原:宗教的・呪術的なテーマや、生命倫理に関するものを作品として扱うということに少し二の足を踏んでいたところがあったのですが、山中さんのお話を聞いて、そんなに肩肘張る必要がないんだなと思えるようになりました。あくまでも自分のスタンスは崩さずに取り組めばいいんだと背中を押してもらえた感覚がありました。また、デジタルファブリケーションやバイオテクノロジーなど新しい領域を開拓し、自分の表現の幅を広げていく山中先生のクリエイターとしての姿勢もとても勉強になりました。

作品制作に向けた市原さんのアイデアスケッチ。

これまでのインタビューを通して、作品の構想はだいぶクリアになってきましたか?

市原:自分が設計すべきストーリーやつくるべきものが少しずつ見えてきました。祭りというものは、厄災を振り払ったり、豊穣を祈願したり、何かしらのお願いを神様に伝える機会だということがわかってきたので、作品ではこうした祭りの概念を抽象化しつつ、東京という都市における厄災や豊穣の概念についても考えていく必要があると感じています。具体的につくるものとしてはまず「御神体」があって、ここではバイオテクノロジーを使って生命感のようなものが表現できないかと考えています。それと、来訪神行事などではあまり登場しないのですが、土地のエネルギーを集めたり、神様を元気にする作用を持つ「神輿」もつくることになりそうです。一般的な神輿というよりは、有名な男根崇拝の奇祭「かなまら祭り」のエリザベス神輿のような象徴的な存在をイメージしているのですが、ここに仮想通貨のシステムを紐づけ、世界中から投げ銭(入金)がされると神輿が派手にギラギラと光ったり、何かが打ち上がるみたいな演出ができると、祭りのデザインとして面白そうだなと漠然と考えています(笑)。

会場や展示期間についてはどんなイメージを持っていますか?

市原:お祭りなので、1日勝負になると思います。場所に関しては、以前に中野区の川島商店街で「東京行灯祭」というテクノロジー奇祭を企画したことがあったのですが、この時のように地元の商店が祭りに慣れているような場所でやったら、屋台などフードが充実するのではないかという期待があります(笑)。また、畑中さんのインタビューでも話に出たニュータウンなどで、奥様たちのドロドロした情念ではないですが、一見まっさらに見える場所の土着性みたいなものがあらわにできたら面白そうですよね。こうした市街地の公共空間をテンポラリーに聖地化するようなことに興味がある一方で、もともと祝祭や儀式性を帯びている神社という場所でやってみたいという気持ちもかなり強いです。

開催時期はいつ頃になりそうですか?

市原:実は、昨年末に東京都の助成金が決まったので、2019年中には実施しなければならず、場所も都内某所になるはずです。基本的には屋外での開催が前提なので、あまり寒くなり過ぎない11月前半頃までにはと考えています。いよいよお尻に火がついてきました(笑)。

若手女性作家グループ展シリーズ Ascending Art Annual Vol.2 『まつり、まつる』at Spiral(2018年)

今後の制作プロセスについても聞かせてください。

市原:いまはまだインプットが足りないと感じているので、祭礼や御神体、神輿に関する文献を読み漁るなどリサーチを重ねているところです。これがひと段落したら、御神体や神輿の制作に入る予定ですが、これらも会場が決まると詰めやすくなる気がしています。また、助成金だけでは制作費や運営費をカバーしきれないので、並行して資金集めにも動いていくつもりです。大きくは企業スポンサーとクラウドファンディングの2ラインになりそうですが、早い段階で多くの方たちにコミットして頂きたいので、クラウドファンディングを早めに始めようと思っています。実は、今回の作品の裏テーマとして、アーティストとお金の面白い関係を見出したいというものがあるんです。例えば、クラウドファンディングで支援してくれた方にワークショップにも参加してもらって一緒に何かをつくったり、お金が潤滑油になるような制作プロセスをイメージしています。そもそも提灯に協賛者の名前が入っていたりするお祭りというもの自体が、それに近い成り立ちだと思うんです。

制作における課題についてはいかがですか?

市原:まずはなによりも会場探しですね。神社からニュータウンまで色々ロケハンをしながら、早めに会場を決めたいです。そして、今回の作品は単なるイベントではなく、祝祭や祭礼、儀式にすることが肝なので、それをどのように設計できるかが最大の課題です。祭りは愛郷心にもとづいた住民の参加が大切だとある文献に書かれていたのですが、今回東京で開催するにあたって、いかにムラの祭りに参加する共同体のようなものをつくっていけるかがカギになるのかなと。先ほど話したクラウドファンディングやワークショップなど、祭りの準備段階から多くの人を巻き込めるような機会をつくっていくつもりです。さらに、どこかのタイミングで祭りへの出展者を公募したり、昨年のアルスエレクトロニカで知り合った海外のアーティストたちにも遠隔での参加を呼びかけて、国内外からさまざまなエネルギーが集まってくるようにしたいなと思っています。

最後に、お祭りに向けた抱負や、カンバセーションズで取り組みたいことなどを聞かせてください。

市原:まずカンバセーションズでは、まだしっかり掘り下げられていない仮想通貨や貨幣、バイオテクノロジーなどの専門家にお話を伺いたいですね。また、祭りの会場探しという観点からも、神社などに詳しい方に色々具体的な話を聞きたいです。今後クラウドファンディングなどを始めるにあたっても、カンバセーションズでのインタビューやこうした中間報告的な記事が、支援者の方々とのコミュニケーションとして非常に大切になってくると思っているので、その辺りもうまく連携していけると非常にありがたいです(笑)。2019年に入っていよいよエンジンがかかってきた感があるので、制作を進めていくことがとても楽しみですし、日本一の珍祭のようなものが行えるといいなと思っています。

市原さんも参加したアルスエレクトロニカ 北京巡回展「Future Humanity – Our Shared Planet,」より。Photo: Vanessa Graf / Ars Electronica