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暮らしの更新

「ゆっくり おいしい ねむたいな」代表・熊野森人さんが聞きたい「幸せを数値化する方法」

「ゆっくり おいしい ねむたいな」代表・熊野森人さんが、
「ユカイ工学」代表・青木俊介さんに聞く、
「ロボットがもたらすユカイな未来について」

脳波で動く猫耳「Necomimi」や、尻尾がついたクッション型の癒やしロボット「Qoobo」など、ユニークな視点から人々を”ユカイ”にさせるロボットやデバイスを開発しているユカイ工学。効率化、合理化のツールとして開発されることが多いロボットの世界において、人間の感性や感情に訴えかけるものづくりを行っている同社代表の青木俊介さんとともに、「ゆっくり おいしい ねむたいな」代表の熊野さんが、テクノロジーと人間の幸せな未来について考えます。

熊野森人
ユカイの概念ってなんですか?

僕が代表を務めるエレダイ2は、企業や行政のブランディングやコンサルティング、広告の企画、ディレクションなどをしているのですが、それとは別に「ゆっくり おいしい ねむたいな」という会社を2年前に立ち上げました。この会社では、世の中の幸せ度数を高めることを目指していて、偏差値やお金に代わる客観的な幸せというものを数値化ができないかと考えています。昨今、行政などでも幸せ指数のようなものを発表していく動きがあり、その中では若者は人とのつながり、年配者は健康が最も幸せに関連するとされているものの、対象とする範囲が広すぎるので、どうしても議論が抽象的になりがちです。そこで僕たちは、食時間にフォーカスしているのですが、ロボットで人を幸せにしようとしている青木さんは、目指しているところが近いのではないかと感じています。そこで、ゆくゆくはコラボレーションもできないかという期待も持ちつつ(笑)、今日はお話を伺いに参りました。

青木:ありがとうございます。たしかに僕たちが目指しているところは、熊野さんたちと近いかもしれませんね。もともと僕は、チームラボという会社の立ち上げに関わり、そこではCTOという肩書きを持っていて、つまりエンジニアのトップだったわけですが、まずはエンジニアたちが幸せに働ける会社、僕らなりの言葉で「ユカイ」に働ける環境をつくりたいと考え、ユカイ工学をつくりました。

青木さんが考える「ユカイ」の概念を教えてください。

青木:エンジニアが「ユカイ」であるということを考えた時に、彼らはまず、何かをつくったり、いじったりすることが好きなんですね。そして、その過程には、できなかったことができるようになったり、新しいことを覚えられた喜びや成長があり、さらには自分が考えたものが実際に動いた時のうれしさがある。はじめのうちは、会社としてユカイじゃないことも多かったのですが(笑)、基本的にうちのスタッフたちは、個人プロジェクトで何かをつくっているような人ばかりで、週末は一切PCに触れないというタイプではなく、暇さえあればずっとつくっている人たちなんです。そうした人たちが幸せに働ける環境というものを意識していて、会社の機材などは個人プロジェクトでも自由に使えるようにしています。

ユカイ工学さんがものをつくる上では、どんなことを大切にしてるのですか?

青木:それについても基本的には人をユカイにするものをつくるということを大事にしています。僕らの専門分野であるロボットの世界では、利便性や効率というものが求められがちですが、僕らが目指しているのはそこではなく、ユカイなものをつくりたいんです。

熊野森人
どうすれば幸福度はアップしますか?

僕たちもよく話すことなのですが、世の中には「コスパ」や「時短」を目的にしたモノやサービスが多いですが、それは見方を変えると、余暇を生むということですよね。例えば、これまで紙と鉛筆を使っていた計算が、表計算ソフトを導入することで「時短」できたということなどもそうだと思いますが、合理化して生まれた時間を何に使うかということがあまり語られていない気がしています。時短ができたから、その分もっと働こうとなってしまうのは悲しいし、時短をした先にはもっとユカイな時間が待っていてほしいなと。

青木:そう思います。ちなみに、熊野さんたちが開発しようとしている幸せを測るデバイスというのは、シチュエーションとしては、家での食事と外食のどちらを想定しているのですか?

基本的には家での食事を考えていて、しかもパーティなどのハレの日ではなく、日常の食生活の中にある幸せというものをイメージしています。特に目新しいものがあるわけではない普段の食事に、ひとつ何かを加えることで幸せが感じられるようなことだったり、毎日の食卓の幸せ数値をアップしていきたいという思いがあります。とはいえ、よく語られる「丁寧な暮らし」という文脈だけではなく、仮にファストフードを食べるにしても、天気が良い日は外で食べた方が気持ち良いよねとか、そういう選択が自然とできていくようになると、世の中がもっと良い感じになるのかなと(笑)。

青木:丁寧な暮らしという話になると、それをしないといけないという心の重荷に感じてしまう主婦の方も多い気がして、それは本来の幸せではないですよね。逆に、冷凍食品を使うことには罪悪感を感じてしまいがちですが、別にそれも全然良いはず。また、少し切り口が変わってしまいますが、もっと子どもが増えることもポイントなんじゃないかと思います。僕も子どもがふたりいるのですが、必然的に家でごはんを食べる機会が増えるんですよね。そうすると食事をする時間がもっと大切なものになるし、結果的に熊野さんが言う食時間の幸せもアップするのではないかと。例えばフランスでは、4割の親が未婚で子どもを産むとも言われていて、それは結婚制度が崩壊してるのか、あるいはアップデートされているのかもはやよくわかりませんが(笑)、極端な話、誰が親なのかよくわからないような子でも、みんなで育てるくらい自由になった方がいいんじゃないかなと。

子どもが生まれると、食材にも気を使いますしね。ユカイ工学さんとしても、子どもというのはユカイになってもらいたい対象に含まれていると思うのですが、この「Qoobo」なんかは絶対に子どもも喜びますよね。こういうロボットがどういう経緯で生まれてくるのかということにも非常に興味があります。

青木:これは社内コンペから生まれたものなのですが、この時は4チームにわかれて、何かしらの課題を解決する製品をつくろうというテーマが最初にありました。

この時の課題というのは、大きな社会的な問題なのか、あるいは個人レベルの課題なのか、どちらだったのですか?

青木:これに関しては、実家に14匹の犬がいた女性のデザイナーのアイデアがきっかけになっています。彼女が暮らすようになった東京のマンションではペットを飼うことが難しかったんですね。ペットNGの場所でも、ペットを抱いて安心できるような感覚を得たいというところから、鳴いたり動き回ったりせず、エサも要らないこの「Qoobo」が生まれました。

熊野森人
どんなロボットをつくりたいのですか?

このQooboは顔を持たず、尻尾の動きだけで感情を表していますが、100パーセント感情が読み取れないというところに、逆に愛おしさが感じられますね。

青木:そうなんですよね。そもそも技術的なことを考えると、おそらくあと数十年間は、ロボットが100パーセント人間の言葉を理解して、意思疎通をすることは難しいと思うんです。

青木さんは、100パーセント理解できない存在に魅力を感じているような気がします。その中でQooboは尻尾というものが意思疎通の媒介になっていますが、これにはどんな理由があるのですか?

青木:まず、尻尾があるというのが単純に可愛いというのと(笑)、尻尾さえあれば意外と成立してしまうというのがわかったので、このような形になりました。可愛いというのは、僕らにとっては非常に重要なワードで、世の中を可愛いロボットで満たしたいと思っているんです。

たしかにユカイ工学さんがつくるロボットは、美しさやカッコ良さを追求したものよりも、可愛らしいものが多く、それがユカイという概念にもつながるのかもしれないですね。可愛いという感覚などにも言えることだと思いますが、商品やサービスの受け入れられ方というのは国によって大きく違って、それはそれぞれの国の美意識、思想、文化、宗教観などに紐づくものですよね。その中でユカイ工学さんがつくっているロボットというのは、日本というローカルの中で受け入れられるものなのか、それとも世界中の誰もが良いと感じられるものなのでしょうか?

青木:日本でウケるものが世界でもウケるというのが持論なので、まず日本で受け入れられるということを大切にしています。僕らがつくったものを海外の展示会などに出すと、「ベリージャパニーズ」と言われることがあります。僕らは特に、クールジャパン的な日本らしさは意識していないのですが、自分たちが素直に良いと思っているものが、結果的にそう受け止められているのだと思います。特にゲームなどのプロダクトには日本人の特殊な感性というものがよく現れていて、それが世界的に受け入れられている理由にもつながっているのではないかと感じています。その最たる例はポケモンやマリオで、iPhoneなどのデバイスがこれだけ進化しているにも関わらず、ポケモンやマリオなど消費されているコンテンツはゲームボーイの時代と変わらないというのも面白い話ですよね。デザインやキャラクター性というものが重要になるロボットというのも、ゲームなどと同様に日本が得意とする分野なのかなと思っています。

尻尾がついたクッション型の癒やしロボット「Qoobo」。

日本的なロボットのデザインとはどんなものなのでしょうか?

青木:ロボットは軍事用などに使われることも多いので、アメリカなどでは少し怖いイメージを持たれていますが、日本をはじめとするアジアでは、「ドラえもん」や「鉄腕アトム」などの影響によってロボットに親近感を持っている人が多いんですよね。そうした背景があるからこそ、ロボットというものが癒やしのために使われたりもするのだと思います。

最近は車のデザインなどを見ていても、特に日本車はロボットがベースになっているようなものが増えている気がします。工業製品などにしても、ヨーロッパでは立体造形としての美しさというものがベースにありますが、日本にはガンダムなどロボットからの影響が強いと思いますし、そうしたアニメの世界観のような造形が、いまや世界的に見ても大きな潮流になりつつあるように感じます。青木さん自身も、例えばアトムやドラえもんのようなデザインというのは意識しているのでしょうか?

青木:僕らの場合は、アトムやドラえもんなどよりも、トトロやまっくろくろすけのような存在を意識しています。小さな妖怪のようなロボットたちがたくさんいるような世界観が良いなと思っているんです。

家にいる家族とメッセージのやりとりができるコミュニケーションロボット「BOCCO」。

熊野森人
テクノロジーは人間の感情を扱えますか?

先ほどの癒やしのロボットの話にもつながるかもしれませんが、人間の感性や感情をテクノロジーで受け止めるというのはとても面白いテーマだと思っていて、日常的な体験や心理状況みたいなものをいかに拾い上げてアップデートしていけるのかということに関心があります。それは、ユカイ工学さんがつくっているロボットにも通じるところだと感じますし、青木さんがもともと研究されていたAIなどにも射程が広がる話だと思いますが、今後テクノロジーがユカイに変わっていく瞬間というのはより増えていくと思いますか?

青木:思いますね。今後テクノロジーがさらに進化していくと、より高度なレベルで人間の感性を再現することや、人間の感性に心地良いものをカタチにすることがますます求められてくるのではないでしょうか。

僕らが取り組もうとしている感情の数値化というものも可能だと思いますか?

青木:数値化は何かしらの形でできると思います。最もやりやすそうなのは、センサーを使って測れる数値を見つけることですかね。そして、熊野さんもおっしゃる通り、やはりある程度シーンを絞った方が、数値化はしやすい気がします。また、例えば、Google検索のランキングシステムなども近いものがあると思います。Googleでは検索キーワードを入れると、重要度が高いページから順に表示されますが、これはあくまでも「重要そう」なページという意味で、どちらかというと人間の感性に根ざしたものを数値化し、ランキングにしているわけですよね。

なるほど。青木さんたちは、人をユカイにするためのロボットをつくっているわけですが、それが実際に人々をどのくらい幸せにしているのかということを客観的な数値にして可視化することに興味はありますか?

青木:そうですね。例えば、Qooboにセラピー効果があるということを何かしらのエビデンスにしたいと考えてるので、ゆくゆくは心理実験などに詳しい方の力などを借りながら、それを具現化していきたいですね。

何かしらご一緒できる機会があることを楽しみにしています。もう少し考えがまとまったら、改めてご相談させて頂いてもよろしいでしょうか?

青木:もちろんです!

今日はどうもありがとうございました。


インタビューを終えて

青木さんは、共通の知人の方にご紹介頂いた後、実際にお話をさせて頂く機会をずっと望んでいた方でした。僕たちのまだ定まりきっていない「食時間における幸せの計測」というテーマにおいて、「社会に子どもが増える」という設定をお話し頂いたことは、とても衝撃でした。なるほど。小さな子どもがいると、自ずと子どもファーストの生活となり、食事にも気を使う。その気の使い方もすべてに対して丁寧に取り組んでいると親の身体が持たなくなるし、雑に扱うと親子ともども荒んでくる。だから、適度な意識の高さの中で行動する。そういう全く別の社会的問題などでも、ポンと仕組みの中に置くことで途端に気持ちや行動に作用することもあるんだな、ということがとても学びになりました。
そのほかにも以下のことを気づきました。

●利便性や効率でなくユカイを目指すことが大事
●シーンを絞って何かしらのアクションをセンサリングし、その結果を解析させるというプロセスが基本
●心理学的側面で観測した時の言葉の結果を数字に変換することは可能か否か

青木さんとはぜひ一緒に新しいものをつくりたいです。