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「ゆっくり おいしい ねむたいな」代表・熊野森人さんが聞きたい、「幸せを数値化する方法」

「ゆっくり おいしい ねむたいな」代表・熊野森人さんが「幸せを数値化する方法」について聞きたい理由

これまでにもカンバセーションズに数回インタビュアーとして参加している熊野森人さんは、企業のブランディングや広告制作などを手がけるエレダイ2の代表を務める傍ら、2016年に新会社「ゆっくり おいしい ねむたいな」を設立しました。え? そんな名前アリ? と聞きたくなってしまうこの会社では、「食の時間を豊かにデザインし、毎日幸せを感じられるようにすること」をヴィジョンとして掲げているそう。「…で、実際のところ、どんなことをしていきたいんですか、熊野さん!」ということで、今回カンバセーションズは、「ゆっくり おいしい ねむたいな」との共同プロジェクトとして、同社が目指す「幸せの数値化」を実現する方法を探るべく、料理、空間、さらにテクノロジーなど各分野のトップランナーたちにインタビューをしていきます。

熊野さんはエレダイ2の代表として、企業のブランディングや広告などのお仕事をされていますが、なぜ新会社「ゆっくり おいしい ねむたいな」をつくったのですか?

熊野:以前から受託の仕事とは別に、自分たちからメッセージを発信していくようなこともしたいと思っていたんです。そして、社内で色々話し合った末に浮かび上がってきたのが、「食」というテーマでした。エレダイ2では、会社を立ち上げてからずっと、ランチはなるべくスタッフ全員で食べるということを続けているんですね。同じ釜の飯を食べるじゃないですが、それが阿吽の呼吸につながり、仕事のパフォーマンスも向上すると考えていて、食事の時間を共にすることを大事にしてきました。また、僕は高校を卒業して実家を出る時に、「これから先、経済的に苦しくなることがあっても、食事だけはしっかりお金をかけなさい」と親から言われたんですね。最初はあまりよく意味がわからなかったのですが、それだけ食事というものが大切で、おろそかにしてしまうとすべてが良くなくなるということを言いたかったんだろうと、いまになるとわかるんです。こうした理由から、食時間を豊かにして、日々の幸福度を高めていくということをヴィジョンに掲げ、新しい会社を立ち上げることにしました。

「食事」ではなく、「食時間」なんですね。

熊野:そうなんです。最近は、働き方や労働環境などについて話題になることが多いですが、それよりも前から、僕たちは何のために働くんだろうということをずっと考えていたんです。やりがい、社会性など色々と理由はありますが、最も大きな理由は「お金」だと思います。もちろん、生活の安定のためというのがありますが、天井知らずに稼ぐことを目指すのが本当に幸福に繋がるのかが疑問でした。あるデータによると、年収と幸福度というのはある程度までは比例関係にあるのですが、一定の収入を超えた時点から反比例していくらしいんですね。親の財産や不労所得があったりする超富裕層はまた話が別なのですが、要は自分が働いてお金を得るということに関して言うと、度を過ぎてしまうと健康や家庭に支障をきたし、幸福度が下がってしまうということなんだろうと。じゃあ、お金に代わる幸せは何かというと、愛とか宗教という話になりがちですよね(笑)。もちろんそれも否定しないのですが、それ以外の価値観はないのかなと考えた時に、生きていくために不可欠な衣食住というものがあって、その中でも多くの人が1日3回は摂る食事の時間というものを豊かにできれば、人は日々幸せを感じられるんじゃないかと。

これまで、「ゆっくり おいしい ねむたいな」では具体的にどんなことをしてきたのですか?

熊野:食時間を豊かにするためには何が必要なのかということを考えながら、レストランの空間演出やメニュー開発、イベント企画などをしてきました。ただ、これらが本当に誰かの食時間を豊かにできたのかというのは、結局当事者へのインタビューなどでしかわからないんですよね。僕らとしては、いまその人が幸せに感じているということを、もっと客観的に証明して第三者にも共有できる方法をつくりたいと考えています。そのために、幸福に関する文献や、幸福というものをデータとして扱えるデバイスなどについて色々調べたりしています。

それが、「幸せの数値化」という今回のインタビューのテーマにもつながっていくのですね。

熊野:はい。たとえばオーガニックな素材で丁寧にごはんをつくり、ゆっくり時間をかけていただくのは幸せなことだと思いますが、なにもそれだけが食時間の幸せではなくて、天気の良い日の公園で食べるファストフードが凄く美味しく感じられることだってありますよね。こうした幸福感を感覚的に共有することはできると思うのですが、その人にとって、どんな食時間が、どのくらい幸せなのかということを第三者に伝えることはなかなか難しい。でも、人というのは何かと何かを比較することでしか良し悪しを判断できないところがあって、こと人の幸せということに関しては、学歴や肩書、財産などの条件が優れていると、それだけで幸せであるという認識が現在の判断基準になっていると思うんです。学歴や財産などがあることで人生の選択肢が広がる側面はあると思いますが、これらさえあれば幸せになれると信じてしまうことは、それこそあまり幸せな状態ではない気がします。そう考えた時に、センスを共有できる人たちだけに向けられたライフスタイル提案というアプローチとは異なる形で、その人の人生に影響を及ぼしたり、行動を喚起することにつながる幸せの指標やものさしがつくれないかと。

例えば、「世界幸福度ランキング」のようなものや、SNSの「いいね」の数など、人々の幸せを図る統計や指標と言えそうなものはすでにいくつかあると思いますが、熊野さんが考えているのはこれらとはまた違うものなのですか?

熊野:僕がイメージしているのは、年間を通じた統計のようなものとは少し違って、もっと刹那的な指標です。また、SNSの「いいね」などは人々の承認欲求に紐付いていて、その人の行動に影響を及ぼす新しい指標という点ではとても興味深いと思っています。ただ、例えば、幸せそうな生活の1シーンを演出して、それをInstagramに投稿することでたくさんの「いいね」が得られたとしても、その行為をしている瞬間のその人が幸せかどうかというのはわからないですよね。僕らがしたいのは、その人が幸せになった時に初めてデータに反映されるような指標をつくることなんです。「あなたはいま、本当はこう思っているんです」ということを示すという点では、もしかしたら嘘発見器的のようなものに近いのかもしれません。

今回のインタビュー企画を通じて、どういう人たちにどんな話を聞いてみたいと考えていますか?

熊野:まず、幸せな瞬間のデータを取るという部分で何かヒントが得られるような方たちにお話を伺いたいと思っています。食事中に大がかりなセンサーをつけたり、マイクやカメラなどをたくさん設置するのは、それだけで不自然な食空間となり、あまり現実的ではない。でも、何かしらをトリガーとしたセンサリングをしないと客観的なデータはとれないので、カギとなるのは「会話」や「声」かなと漠然と思っています。だから、音声認識などの分野の研究をされている方などに色々伺ってみたいですし、音声に限らずデバイスやセンサーと、人の心や幸せの関係についての研究や商品開発などをされている方にもとても興味があります。

その他では、食に関する場の運営や空間なども興味のある分野として挙げてくれていますね。

熊野:食時間の幸福というのは、空間やシーケンスなどと紐付いているところが大きいと感じているので、やはり食にまつわる時間や空間という部分にアイデアを持っている方々にはお話を伺いたいです。また、料理をつくる専門家の方たちについては、食事に対するユニークな考え方を持っている人や、日々の生活やコミュニティにおける「食」というものをとらえ、活動している人たちにお会いしてみたいですね。

そして、幸せを数値化するデバイスやアプリの開発につなげるというのが最初の目標ということですね。

熊野:はい。もともと僕はIAMASというメディアアートなどについて学ぶ学校を出ているのですが、実はテクノロジー自体を目的にしたような演出などはあまり好きではないんです。ただ、テクノロジー自体は好きですし、人の心の動きなどと連動する技術というのはとても面白いと思っているので、今回それを実現したいなと。とはいえ、なかなか会社としてビジネスにするまでには道のりが長そうですが(笑)。自分の中でもまだ漠然としている部分があるし、非常に抽象的なテーマなのですが、だからこそ取り組んでみたいと思っているんです。