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池田晶紀

写真家

金子益三

上富良野町 町議会議員

さまざまなアーティストのポートレート撮影や広告写真などを手がける写真事務所「ゆかい」を率いる池田晶紀さん。そんな池田さんは、先日ひょんなことから北海道上富良野町のPR大使に任命されたといいます。ということで、今回池田さんがインタビューするのは、上富良野町で町議会議員を務め、「サウナスパシティ構想」を掲げたまちづくりを推進している金子益三さん。一見接点がなさそうに思える金子さんと池田さんの間には、果たしてどんな出会いがあったのか? そして、池田さんがいま金子さんに聞いてみたいこととは? 東京にサウナ視察ツアーで滞在中の金子さんに、サウナセンター大泉さんでお話を伺いました。

池田晶紀 

インタビューの前に

いま、池田晶紀さんが聞きたいこと

「初めて益三さんとお会いしたのは、タナカカツキさんと一緒に上富良野に行った時なんです。『サ道』という本を出したカツキさんに、ぜひ一度上富良野の素晴らしいサウナを体験してほしいというお誘いがあり、そこに僕も同行したんですね。空港から上富良野に着いたら、以前にカンバセーションズでもカツキさんがインタビューしていた濡れ頭巾ちゃんの案内で、パーマ屋さんに連れて行かれたんですよ。そうしたら中から風格のあるオヤジが出てきて、『師匠です』と紹介されて。それがいまの僕らのサウナ師匠なんですが、その師匠や益三さんたちと一緒に、いきなり『ヴィヒタ』を作るぞということになって(笑)。『ヴィヒタ』というのは、白樺などの葉を束ねて作るもので、本場フィンランドのサウナには欠かせないものなんですが、当時まだまだサウナ初心者だった僕は、『ヴィヒタって何?』『サウナって何?』という状態で、特に自己紹介もないまま一緒に『白銀荘』というサウナに行って、いきなり裸の付き合いが始まったんですよ。
白銀荘は標高1200メートルの山の上にあって、そこで最高のサウナ体験をさせてもらったんですが、その時もずっと益三さんは凄くニコニコしていて、でも、この人が何者なのかはまだ分からない(笑)。夜になって一息ついて我に返った僕らは、ようやくお互いが何をしているかという話をしたんですね。その後は、上富良野をPRする冊子の撮影を担当させてもらったりするなかで、何度も上富良野に通うようになり、先日はPR大使にも選んで頂くなど、ずっとお付き合いが続いているんです。今日はそんな益三さんに、まちづくりのクリエイターとして色んなお話を聞いてみたいなと思っています」

池田晶紀 

どうやって町を紹介しているのですか?


上富良野に来る人には、とにかく食べたり、飲んだり、お風呂やサウナに入ったりして、空気を吸ってもらいたいんですよ。

Q..益三さんとは、上富良野を紹介する冊子でお仕事をさせて頂いたり、PR大使に選んで頂いたりと、お付き合いが続いているわけですが、最初にタナカカツキさんと一緒に上富良野に行った時は、挨拶も自己紹介もないまま、いきなり白樺でヴィヒタを作り、一緒にサウナに入ったんですよね。その後夜も静まり返り、ゆっくりした時を過ごしている時にふと我に返って「ところで誰なんですか?」という話になったんですよね(笑)。

金子:そこでようやく、実は私は上富良野町でこういうことをやっていて云々という話をしたんでしたね。

Q.そこで初めて益三さんが町の議員をやっているということがわかったんです。その時に思ったのは、まちづくりをしている人自身が一番町を楽しんでいて、特に自己紹介もしないまま、上富良野に来る人たちを受け入れているという態度が凄く面白いなと。

金子:会ってから8時間くらい自己紹介しなかったですよね(笑)。上富良野に来る人には、とにかく食べたり、飲んだり、お風呂やサウナに入ったりして、空気を吸ってもらいたいんですよ。それらを感じてもらってから、「紹介が遅れましたが、金子と申します」と(笑)。

Q.なるほどー。やっぱりそういう手口だったんですね。

金子:最初に先入観を植えつけるのは良くないじゃないですか。先に手の内を全部明かしてから、この順番でやってくださいという感じだと料理の本みたいですよね。それじゃ面白くないから、まずは材料を好きな順番で料理してみてくださいと。上富良野に100人の人が来た時には100通りの楽しみ方があっていいと思うんです。黙々と山歩きをする人、街をうろつく人、写真を撮る人など百人百様で楽しんでもらわないとね。写真や映像を通して知られているラベンダーが広がる富良野の風景というのがありますが、それ以外にもまだまだ深いものが上富良野にはあって、個々人にそれを体感してもらいたいんですよ。

Q.外から来た人間として感じたのは、「北の国から」の世界が本当にあるんだということだったんですよ。まるで作られていない本当の「北の国から」がここにあると。

金子:池田さんは「北の国から」を崇拝していて、上富良野にいる時はずっと黒板五郎でしたね(笑)。池田さんとカツキさんに上富良野のPR大使をお願いする時に、白銀荘という日本でも3本の指に入るサウナがあるところで襲名式をやりましたよね。そこで「北の国に憧れて来たけど、実はあの景色は全部上富良野だったんですね」という発言が池田さんからあって、ここに住んでいる人間としては、本質を見てくれた思いがして、凄くありがたかったですよ。<続く>

池田晶紀 

町民はどんな人たちですか?

上富良野は飲み屋さんなんかもみんな個性的。美人すぎるママから個性的すぎるママまで、一度来たら忘れられない人ばっかり(笑)。

Q.上富良野には、ドラマで見ていた世界がそのまま残っていて、しかもそれが実際に動いていて、町が循環しているというのにビックリしたんです。

金子:僕は、池田さんに冊子の撮影をしてもらって、クオリティの高さにビックリしたんですよ。我々が伝えたいと思っている景色以上に、上富良野の良いところを伝えようとして切り取ってくれていたし、その辺にいる女の人たちがみんな佐々木希みたいに写っていた(笑)。もともと上富良野は景色は良いところなんですけど、それを風景カメラマンが撮ってもあまり面白味はないんですよね。でも、池田さんは町の人たちや訪れた人たちの表情を撮るのが本当に上手ですよね。

Q.「あさよ」がダンボールを持っている写真とか最高でしたよね(笑)。「あさよ」というのは商工会で働いていて、みんなに愛されるマドンナ的な存在の女性なんですけど、これがまたいい女なんですよね。彼女が制服を来て、ダンボールを持って弁当を運んでいる姿とか本当に名場面で、グッとくるんですよ。情感豊かな表現というものが大好きな僕からしたら、上富良野の日常はすべてが名場面に見えるし、凄くドラマチックなんですよね。

金子:上富良野は飲み屋さんなんかもみんな個性的な街ですからね。美人すぎるママから個性的すぎるママまで、一度来たら忘れられない人ばっかり(笑)。あと、ドラマチックというところで外せないのは、第一食堂のあかりちゃん。小学3年生のアクトレスがいますから。

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Q.急にそこだけ英語 (笑)。あかりちゃんのお母さんも凄く元気な人で、またそのお母さんがもっと元気。朝5時に起きてお弁当を作っているんですよね。元気な街には、その人がいないと盛り上がりに欠けてしまうようなお母さんが必ずいますよね。

金子:第一食堂は、上富良野のライフラインと言われてるんですよ。福祉というのはこれをモデルにしたらいいんじゃないかと思うくらいのお店で、一人暮らしのご老人とかに365日3食分のお弁当を配達しているんですよね。あかりちゃんのお母さんの理佳ちゃんが軽自動車で配達しているんだけど、お店にいるよりも車に乗っている時間の方が長いんじゃないかというくらい(笑)。さらにそのお弁当を作っているのが、あかりちゃんのおばあちゃん。そして、理佳ちゃんもおばあちゃんも私以上にずっと笑っているんですよ。師匠もそうですけど、サウナにつながっている人たちはみんな笑顔なんですよね。そしてその笑顔が、サウナに入って背中に浮かぶ汗の滴に映るわけですよ。

Q.気持ち悪いよ!(笑) しかし、たしかに笑顔は伝染してました。<続く>

池田晶紀 

サウナスパシティ構想って何ですか?

上富良野を日本のラップランド、つまりサウナスパシティにしようと。こういう活動が日本のサウナ業界の底上げになるといいですし、私はサウナに恩返しがしたいんです。

Q.上富良野という街に多くの人を呼ぶために、森を楽しむためのコースを作るなど色々な試みをしてきていると思いますが、最近は新しいキーワードとして「サウナ」というものが出てきているんですよね。

金子:そうなんですよ。「サウナスパシティ構想」と名付けているんですけど、以前にフィンランドに行かれた日本サウナ・スパ協会の重役たちが上富良野のサウナに入った時に、これはフィンランドのラップランド地方と同じだと。それをきっかけに、上富良野を日本のラップランド、つまりサウナスパシティにしようということになったんです。本場のフィンランドでは、白樺の枝を束ねてヴィヒタというものを作るんですけど、上富良野にも白樺は山ほどあるし、まずは日本のヴィヒタ生産の先駆者になろうと。

Q.上富良野から日本初の産業が生まれたというのは凄いですね!

金子:いままさに白樺の新芽のように、新しい産業の芽が出始めている段階です。ヴィヒタが水風呂のそばやミストサウナの中にあるだけで、水風呂独特の塩素臭さが和らいだり、サウナ全体の香りが良くなったりするんですよ。アロマテラピーじゃないですが、部屋に置くだけでも森林浴をしている気分になれると思います。

Q.この独特の香りがいいですよね。でも、ヴィヒタを作るというのは労力としてはなかなか大変なんじゃないですか?

金子:そうですね。友だちに木こりがいるんですけど、彼が伐採してくれた20mくらいの幹から枝を切って束ねるという作業を、町のお年寄りたちにやってもらっています。みなさんが家の庭先で作っているんですけど、彼らにも上富良野のまちづくりに参加しているという意識を持ってもらえたらなと。意外に器用なおじさんたちがたくさんいて、フィンランドに行ったこともないのに、私より上手に作る人もいるくらいなんですよ。

金子さんが立ち上げたヴィヒタ生産販売の会社「株式会社丸一幾久屋 ヴィヒタの杜」のWebサイト。

Q.「これが俺のラップランド式ヴィヒタだ!」と。

金子:そうです。「俺のラップランドはきつく縛るんだ」と。

Q.言ってないでしょ(笑)。それで、ヴィヒタはネットでも購入できるそうですね。

金子:はい。時期的な制限はあるんですけど、フィンランドから乾燥させたヴィヒタを空輸で取り寄せなくても、富良野には国産のフレッシュなヴィヒタがありますよと。こういう活動が日本のサウナ業界の底上げになるといいですし、私はサウナに恩返しがしたいんです。もう一度言わせてください。私は、サウナに、恩返しがしたいんですよ。<続く>

池田晶紀 

上富良野にはいつ行くのがいいですか?

実は一番オススメしたいのは冬なんです。すべてが雪に包み込まれた世界にいると、俗世間のイヤなものすべてを白一色にしてくれている感じがするんです。

Q.都会の人たちは、上富良野の大自然にビックリするくらい反応するじゃないですか。あまりにも良いものが身体に入ってきたというのを五感すべてで感じるんですよね。

金子:例えば、上富良野のサウナの水風呂は十勝岳からの伏流水を使っているんですけど、滴った水が口に入ったりすると、それがわかるんですよね。まさに五感で感じるわけです。サウナに入れば鼻からはヴィヒタの香りが感じられ、肌を通して熱を感じ、目を通しておじさんの背中の汗に映る自分の姿が見えるんですよ。

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Q.そこは雄大な富良野の風景でしょう。なんでおっさんの背中なんですか(笑)。

金子:耳からは、サウナストーンにお湯をかけた時のジュッて音がね。

Q.それも小鳥のさえずりとか風の音でしょうが…。

金子:それは冗談として、上富良野では食べ物も美味しいですけど、例えば目や鼻をふさいだ状態で上富良野産のお肉を食べてもイマイチなんですよ。それこそいま話したように雄大な景色を見て、鳥の声を聞いて、森の香りがするなかで、風景ごと頂いて初めて「あぁ美味いな」と。それこそが上富良野なんですよ。

今回取材場所として使わせて頂いた「サウナセンター大泉」さんのクールダウン室に掛けられている上富良野産のヴィヒタ。

Q.本当にそうですね。とはいえ、なかなか頻繁に上富良野に行くのも難しいじゃないですか。そんな時にヴィヒタがあれば、上富良野の自然を部屋の中で楽しめるわけですよね。それに今日取材で使わせて頂いているこのサウナセンターさんなんかは、十勝岳さんの石をサウナ室に使っていて、水風呂やクールダウン室にはヴィヒタが置かれるなど、すべてが上富良野産のもので驚きました。これが東京のド真ん中で体験できるなんて素晴らしい。…ということは、上富良野には別に行かなくてもいいということになりますね。

金子:いやいや、まずは富良野地方の雄大な自然が濃縮したこのサウナセンターさんでプレ体験をしてもらい、その延長で上富良野に来てもらうと。つまりここはジオパークみたいなものですね。

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Q.なるほど。ここでシミュレーションをしつつ、ここにはない気候と景色は本場で体感してくれと。ちなみに、季節はいつがいいんですか?

金子:実は一番オススメしたいのは冬なんです。いま上富良野を訪れる方のほとんどは6月から8月の間に来て、9月に日本で最初に紅葉する十勝岳なんかを見ていくんですね。それはそれでもちろん素晴らしいんですが、冬もまたいいんですよ。もちろんある程度しっかりした装備は必要になりますが、すべてが雪に包み込まれた世界にいると、俗世間のイヤなものすべてを白一色にしてくれている感じがするんです。厳しい季節ではありますが、食べ物も美味しいですしね。でも、長い冬が終わって、一気に植物が芽吹く5月くらいも素晴らしいんだよなぁ。うーん、結局365日ということになりますね。

Q.上富良野は、東京、名古屋、大阪それぞれからアクセスしやすいのもいいですよね。

金子:成田便も直行していますしね。つまり、海外から戻ってきて、成田経由でそのまま上富良野に来るという手もあるんです。

Q.なんでだよ!<続く>

池田晶紀 

インタビューを終えて

日本初のヴィヒタの森を作り、サウナスパシティ構想を推し進めるアイデアはユニーク。PR大使に選ばれた僕も上富良野の良さをもっと勧めたいし、その時にサウナというものがあるのは、絶対的に面白いんです。

「昨今のローカルブームもあり、最近は全国の色んな場所で撮影の仕事をする機会があるんですが、各地に行ってみると、それぞれが色んな問題を抱えていて、それをどう乗り越えていくかという課題があるんですね。そこでポイントになるのは、町の元気な人たちがいかに面白いアイデアを考えて、みんなを束ねながら町を盛り上げていけるかということで、そこには企画力、プロデュース力というものが凄く必要になると思うんです。
そのなかで、日本初のヴィヒタの森を作り、サウナスパシティ構想を推し進める益三さんたちのアイデアはユニークだなぁ〜と。旬の食材やおいしい郷土料理というのはどの地域にもあるけど、サウナという切り口は他にないものだし、サウナをきっかけに五感を通して自然を感じるというのは、都会では絶対味わえない体験ですよね。PR大使に選ばれた僕自身も上富良野の良さをもっと人に勧めたいと思いますし、その時にサウナというものがあるのは、絶対的に面白いんです。
今日は、まちづくりをしている益三さんにお話を聞いてきたわけですが、町の議員さんとして、まちづくりというものをどう考えているのか、いかに上富良野の魅力を広め、楽しんでもらおうとしているのかが伺えてとても良かったです」

もっと知りたい人は…

  • タナカカツキ「サ道」(2011/パルコ)

  • 「もっと富良野」(2012/コア・アソシエイツ)

  • 「北の国から1 Blu-ray」(2011/ポニーキャニオン)

  • ピエニ・カウッパ「ゴー!ゴー! フィンランド」(2011/スペースシャワーネットワーク)

  • 「フットパス・ベストコース 北海道I」(2010/ダイヤモンド社)

  • 田村 明「まちづくりの実践」(1999/岩波書店)

  • 池田晶紀 

    池田晶紀

    写真家

    1978年横浜生まれ。1999年自ら運営していた「ドラックアウトスタジオ」で発表活動を始める。2003年よりポートレート・シリーズ『休日の写真館』の制作・発表を始める。2006年個人スタジオ「ゆかい」設立。2010年スタジオを馬喰町へ移転。オルタナティブ・スペースを併設し、再び「ドラックアウトスタジオ」の名で運営を開始。国内外で個展・グループ展多数。アーティスト三田村光土里とのアートユニット「池田みどり」としても活動。現在、coyote「水草物語」、たまら・び「表紙写真のものがたり」を連載中。

  • 金子益三 

    金子益三

    上富良野町 町議会議員

    1968年上富良野町生まれ。大学卒業後4代目として家業である呉服店丸一幾久屋を継ぎ、商工会青年部員として町づくりに参画をする。平成13年に青年部長となり、平成15年には上富良野町議会議員に初当選する。その後、北海道商工会青年部連合会副会長などの公職に付き、上富良野町と全国の懸け橋となりながら、さまざまな町おこしを仕掛ける。現在、日本初のヴィヒタ生産販売の会社を立ち上げ、「上富良野町スパ・サウナシティー構想」を手がける。趣味はサウナと旅行で全国47都道府県はすべて制覇。