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長谷川踏太

クリエイティブディレクター

田中康夫

小説家

カンバセーションズには2回目の登場となるクリエイティブディレクターの長谷川踏太さん。前回の棋士・渡辺明さんに続き、今回長谷川さんがインタビューするのは、衆議院議員、参議院議員、長野県知事を歴任した作家の田中康夫さん。社会現象となった1981年のデビュー小説『なんとなく、クリスタル』(「もとクリ」)を皮切りに、数多くの著作を発表し、2014年には『33年後のなんとなく、クリスタル』(「いまクリ」)を刊行。各方面から注目を集めた田中さんに、長谷川さんが聞きたいこととは?

4. 何に影響を受けてきましたか?

田中康夫 

自分でも何が影響しているのかよくわからないのですが、小学校の校長が、始業式や終業式になるといつも同じような四季の挨拶をしているのを見て、意味ないじゃんと思っているような子でした(笑)。

Q.田中さんは小説家として、膨大な注釈が添えられた『なんとなく、クリスタル』や、私生活を綴った『東京ペログリ日記』などを書かれ、さらに政界にも進出するなど、常に実験的な試みをされている印象があります。このような姿勢はどのように培われていったものなのですか?

田中:実は僕は、中学以降は、それほど本も読んでないんですよ。なので、自分でも何が影響しているのかよくわからないのですが(笑)、小学生の頃から生徒会長には選ばれるものの、校長が始業式や終業式になるといつも同じような四季の挨拶をしているのを見て、意味ないじゃんと思っているような子でした(笑)。形骸化したセレモニーなんて、中身の伴ったコンテンツになってないじゃないか、みたいな。無論、その頃は、そんなカタカナは知りませんでしたけどね。なので、アウト・オブ・コントロールとなっている「フクイチ」の対応に象徴されるように、アンダー・コントロールという言葉の下に法治国家が「放置」国家となり、メディアも黙ってしまう「呆痴」国家となっているので、アンダー・コントロールされているのは民度が化学変化を起こして眠度になっちゃった国民かもしれない、と先日も田村淳さんがMCを務めるMXテレビの「週刊リテラシー」で述べたら大受けでした。でも、ホントは大受けしてる場合じゃないけどね。

(左)『東京ペログリ日記大全集〈1〉』(2006)、(右)『ぼくだけの東京ドライブ』(1987)

Q.『東京ペログリ日記』は、ブログやSNSなどで私生活の断片を公開することが一般的になったブログの先駆けとも言えますが、いまのインターネットについてはどう思いますか?

田中:インターネットは本来、人々の選択肢を広げてくれる画期的な技術だったはずですが、いまは購入履歴などすべてのデータが記録されたり、「連携」ならぬ「連帯」という名の「監視」や「束縛」をもたらす側面が強まって、結果的に選択肢が減ってきているように感じています。1994年ですからWindowsの発売前年に連載が始まった「東京ペログリ日記」は、ある種のフーリエ主義みたいな感じで、どうせ隠し通せないんだったら、最初からすべてを書いてしまった方がストレスフリーだよね、という考えから始めたものでした。まあ、それ以前からさまざまな連載での僕自身のディスクール自体が、表と裏のギャップがある人のところに行って、「あなたは正義を語る白馬に乗った王子様だと思っているかもしれないけど、実は肥溜めの上を着飾って・気取って歩いている人なんじゃないですか?」と忠告してあげると、痛いところを突かれた「著名人という名の偽善的な相手」が怒り狂って編集部に圧力を掛けてくるという繰り返しでしたけどね(苦笑)。またしても、話がそれてしまいました(笑)。

Q.ぼくだけの東京ドライブ』という文庫本も読ませて頂いたのですが(注:単行本は1984年に『たまらなく、アーベイン』として刊行。31年の歳月を経て今年5月下旬に河出書房新社から復刊)、例えば、ジョニー・ブリストルは首都高から横浜へ向かう道で聴くんだと書いてあって、そういう雰囲気や感覚的な音楽の聴き方に触れることができました。

田中:例えば、ブルース・スプリングスティーンがどんなメッセージを歌っているかというのは、英語を話せない日本人からしたらわからないですよね。バイリンギャルな長谷川さんだって、微妙な言い回しの部分までは、歌詞カードがないと把握しきれないかもしれないでしょ。こぶしが効いた邦楽の歌詞が聞き取れないようにね。なのに、それまでのライナーノーツは、この曲にはこうしたメッセージがある、と主義主張を前面に出すのが大半だったでしょ。でもね、音楽は一枚の写真と同じように、それぞれの人が色んな思いを重ね合わせられることが大切だと思ったから、日が沈む海岸沿いの道路を女の子とドライブしている時とか、雨の日の午前中に一人で自分の部屋でとか、こんなシチュエーションで聴いたら良いんじゃないかと思う100枚のレコードを紹介しながら、物語が展開していく本ですね。四角四面なイデオロギーとは違う、新しい理念というか希望というか、そうした思いを共有するのが音楽という表現だろうし、文章もそうだと信じて書いてきたのだと思いますし。1984年の単行本は1200円、1990年の文庫本も600円なのに、無国籍企業のアマゾンちゃんで4000円もの値段がついているので、5月に復刊することになりました。最近は、ネットで曲のさわりの部分だけ視聴して、曲単位で音楽を買っていますよね。でも70年代から80年代は、輸入盤のレコードはビニールでシールドされていて、試聴もできなかった。だから、ジャケット写真や裏面に書かれたレコーディングスタジオや作詞家、プロデューサーの情報などを頼りに、自分の頭の中にある情報をフルに使って、購入するアルバムを決めていました。目に見えているびん詰めの情報を、自分の中にある缶詰めの情報を使って咀嚼する訓練のようなもので、それは文章を書いたり、何かを表現する上でとても大事なことなのに、いまはそういうものが失われてしまっているような気がしています。<続く>

インフォメーション

『33年後のなんとなく、クリスタル』刊行記念&『ソトコト』連載『憂国呆談』25周年記念公開対談 浅田彰×田中康夫「『もとクリ』『いまクリ』から現在の日本、そして未来まで!」が、4月25日に紀伊國屋サザンシアターで開催。また、100枚のAORのアルバムを朝・昼・夕方・夜とシチュエーション別に、100の物語を展開し、参考アルバム・リスト786枚も網羅した1984年刊行の幻の単行本『たまらなく、アーベイン』が、5月下旬に河出書房新社から復刊予定。
田中さんの出演番組文字起こし「いまクリ」書評等一覧オフィシャルサイトで公開中。

もっと知りたい人は…

  • 長谷川踏太 

    長谷川踏太

    クリエイティブディレクター

    1972年東京生まれ。1997年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)修士課程修了。その後、ソニー株式会社デザインセンター、ソニーCSLインタラクションラボ勤務などを経て、2000年ロンドンに本拠を置くクリエイティブ集団tomatoに所属。インタラクティブ広告から創作落語まで、そのアウトプットは多岐にわたる。2011年よりワイデン+ケネディ トウキョウのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターに就任。

  • 田中康夫 

    田中康夫

    小説家

    新党日本代表、前参議院議員、前衆議院議員、作家、前長野県知事。1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に書いた『なんとなく、クリスタル』(河出文庫)で昭和55年度(1980年)の文藝賞を受賞。2000年長野県知事に就任。2005年、「新党日本」を立ち上げ代表となる。2007年比例区にて参議院議員当選。2009年兵庫8区(尼崎市)より衆議院議員に当選。『神戸震災日記』(新潮文庫)、『東京ペログリ日記大全集①~⑤』『ナガノ革命638日』(以上扶桑社)、『日本を-ミニマ・ヤポニア』(講談社)、『田中康夫が訊く食の極み』(光文社)、『ニッポン解散 続・憂国呆談』(淺田彰氏との共著)、『田中康夫主義』(以上ダイヤモンド社)など著書多数。tanaka@nippon-dream.com