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長谷川踏太

クリエイティブディレクター

田中康夫

小説家

カンバセーションズには2回目の登場となるクリエイティブディレクターの長谷川踏太さん。前回の棋士・渡辺明さんに続き、今回長谷川さんがインタビューするのは、衆議院議員、参議院議員、長野県知事を歴任した作家の田中康夫さん。社会現象となった1981年のデビュー小説『なんとなく、クリスタル』(「もとクリ」)を皮切りに、数多くの著作を発表し、2014年には『33年後のなんとなく、クリスタル』(「いまクリ」)を刊行。各方面から注目を集めた田中さんに、長谷川さんが聞きたいこととは?

2. 文学とはどんなものですか?

田中康夫 

パスタを食べながら「貧しさ」を語ろうとも、ラーメンを食べながら「豊かさ」を語ろうとも、むしろそうした人間の不可解で不可分な部分を書くことこそが文学なんじゃないかと思ってきましたが、どうやらそうじゃないらしい(笑)。

Q.「いまクリ」では、登場人物たちがイタリアンを食べながら社会問題の話をしていましたが、そうした情景が非常にリアルだと感じました。

田中:先ほども述べたけど、パスタを食べながら「貧しさ」を語ろうとも、ラーメンを食べながら「豊かさ」を語ろうとも、むしろそうした人間の不可解で不可分な部分を書くことこそが文学なんじゃないか、表現なんじゃないかと思ってきましたが、どうやらそうじゃないらしい(笑)。例えば、Aクンのことを好きなBさんという人がいたとして、でも、その彼女はたまにはCクンも良いかなと思っていたとしますよね。それは本来非常に人間的と言えるかもしれないのに、「純愛小説」の中では、BさんはAクンのことだけを愛していて、それ以外の人には興味を持ってはいけないと言われてしまう。あるいは、Bさんに言い寄ってきたDクンとも、ついつい“お肉の関係”になってしまうのも人間の不可解な恋愛なのに、私はAクン以外はノーサンキューだなんて、純愛ってそんなに冷たいものなのかよと(笑)。とりわけ最近、国民益よりも国家益、愛民心よりも愛国心だと声高に「集団的自衛権」を語っている人々は、たった1人にしか愛を注ごうとしないBさんは身勝手な「一国平和主義」だと糾弾するかと思いきや、この手の人に限って、「純愛」を若者に説いたりするので始末に負えないよね。

Q.日本の文学界にもそうした保守的な面があるのかもしれないですね。

田中:まあ、先ほどの事例はレベルの低いお笑い話なので、あまりに真剣に捉えられてしまうと、数多の恋愛遍歴のヤッシーとしても逆に困っちゃうので(苦笑)、少し違う話をしましょう。すでに亡くなって23年が経過した中上健次さんという作家は、僕とは対極的に、カギカッコ付きの文壇で高く評価されてきた人です。彼はいつも周囲の物書きが「田中はおちゃらけでダメだ」と腐すと、「康夫ちゃんはそれで良いんだ」と言ってくれていたのですが、当時は誰もが手書きですから締切を過ぎてしまうと印刷会社の出張校正室に缶詰になって原稿を書いていたんですね。で、いよいよ、著者校正もせずにそのままダイレクトにそのまま入稿しないといけないタイミングになってしまうんだけど、徹夜続きの中上さんは、その後も出張校正室の机に、うっぷせるような感じで向かいながら、書き上げた原稿にそれでも手を入れているんですよ。物理的に加筆修正がきかないにもかかわらず。それを見て、全集にする時のためだろうとか、将来文学館に原稿が展示される時のためだろうなんて皮肉った人もいたけど、僕はそうじゃないと思うんですね。彼に限らず、仕事が終わった後もこれで良いのかと考え続けるということが本当のインプルーブメントのはずなのに、ある段階で思考を止めてしまう人たちがいるんです。

(左)『なんとなく、クリスタル』(1981)、(右)『33年後のなんとなく、クリスタル』(2014)

Q.何でも決められた枠に当てはめてしまう人たちということですよね。形式が大好きな日本人についても、田中さんはよく言及されていますよね。

田中:例えば、11人しかいない野球部が甲子園に出場することになったりすると、球児たちにインタビューをして、「投手の●●君は『必ず勝利します』とキッパリ」って表現でまとめられた記事が新聞に載ることがありますよね。でも、果たして人間に「キッパリ」なんていうことがあるのかなと思うんです。人は誰もが、これで良かったのかと色々考え、行きつ戻りつしながら少しずつ前に進んでいこうとするものなのに、「キッパリ」という断定的な言葉を使ってしまうことで、思考停止状態に陥ってしまう。なのに、記者クラブ的なメディアは、それが文法だと信じて疑わない。恐らく駆け出しの若手記者は、そんな表現を使ってないのに、現場から離れて久しいデスクや支局長が、原稿とはこういうものだ、と直してしまう。そうした二元論的な硬直性を超えた思考や行動を生み出していくことが必要なのにね。<続く>

インフォメーション

『33年後のなんとなく、クリスタル』刊行記念&『ソトコト』連載『憂国呆談』25周年記念公開対談 浅田彰×田中康夫「『もとクリ』『いまクリ』から現在の日本、そして未来まで!」が、4月25日に紀伊國屋サザンシアターで開催。また、100枚のAORのアルバムを朝・昼・夕方・夜とシチュエーション別に、100の物語を展開し、参考アルバム・リスト786枚も網羅した1984年刊行の幻の単行本『たまらなく、アーベイン』が、5月下旬に河出書房新社から復刊予定。
田中さんの出演番組文字起こし「いまクリ」書評等一覧オフィシャルサイトで公開中。

もっと知りたい人は…

  • 長谷川踏太 

    長谷川踏太

    クリエイティブディレクター

    1972年東京生まれ。1997年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)修士課程修了。その後、ソニー株式会社デザインセンター、ソニーCSLインタラクションラボ勤務などを経て、2000年ロンドンに本拠を置くクリエイティブ集団tomatoに所属。インタラクティブ広告から創作落語まで、そのアウトプットは多岐にわたる。2011年よりワイデン+ケネディ トウキョウのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターに就任。

  • 田中康夫 

    田中康夫

    小説家

    新党日本代表、前参議院議員、前衆議院議員、作家、前長野県知事。1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に書いた『なんとなく、クリスタル』(河出文庫)で昭和55年度(1980年)の文藝賞を受賞。2000年長野県知事に就任。2005年、「新党日本」を立ち上げ代表となる。2007年比例区にて参議院議員当選。2009年兵庫8区(尼崎市)より衆議院議員に当選。『神戸震災日記』(新潮文庫)、『東京ペログリ日記大全集①~⑤』『ナガノ革命638日』(以上扶桑社)、『日本を-ミニマ・ヤポニア』(講談社)、『田中康夫が訊く食の極み』(光文社)、『ニッポン解散 続・憂国呆談』(淺田彰氏との共著)、『田中康夫主義』(以上ダイヤモンド社)など著書多数。tanaka@nippon-dream.com