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福井利佐

切り絵アーティスト

笠尾美絵

オーダースウィーツ「SWEETCH」主宰

今回インタビュアーを務めてくれるのは、現代的なモチーフやグラフィカルな構図による作品で、既存の切り絵の概念を覆す多岐に渡る活動を展開している福井利佐さん。そんな福井さんがインタビューするのは、オーダースウィーツ、ケータリング、ワークショップ、インスタレーションなどを手がける「SWEETCH」の主宰・笠尾美絵さん。福井さんの個展や雑誌の撮影用に笠尾さんのスウィーツが使われたり、笠尾さんのワークショップに福井さんが親子で参加したりと、すでに交流があるおふたりの間で、はたしてどんな会話が交わされるのでしょうか?

福井利佐 

インタビューの前に

いま、福利利佐さんが聞きたいこと

「笠尾さんに初めてオーダーしたのは、2008年に開催した私の個展の時だったんですけど、季節に合わせて桜と葉っぱのカタチをしたヨモギと紅いものクッキーに、福井の『福』の字の刻印まで入れてくれて、それがとても好評だったんです。その後も雑誌の撮影用にスウィーツをお願いしたり、バレンタインの時にオーダーをさせてもらったりしているのですが、笠尾さんが作るスウィーツはデザインもいつも可愛いし、色んなスパイスが使われていたりして味も甘過ぎず、普通のお店ではなかなか見受けられないようなものにチャレンジしていて、毎回凄いなと思っているんです。昨年末には、子どもと一緒にクリスマスのワークショップにも参加させてもらったりもしたのですが、普段一緒にご飯なんかに行ってお話をしたことはないので、今日はじっくりお話ができたらいいなと思っています」

福井利佐 

なぜオーダースウィーツを始めたのですか?

私の原点であるお客さんの笑顔が見られるということを最初から最後までできるというのが、自分に合っている気がしたんです。

Q.笠尾さんがお菓子作りに目覚めたのはいつ頃なんですか?

笠尾:母親が家庭科の先生で、おままごとの代わりのようにマドレーヌやクッキーを一緒に作るようになったのがきっかけです。中学生になってからは作るのをやめてしまったんですけど、子どもの頃の体験もあったせいで、将来は食の世界に進もうかなと考え高校卒業後は栄養士の短大に入りましたが、自分に一番合っていて楽しみながらできる仕事はお菓子作りかなと思ったんです。お菓子を作って友達なんかにあげると凄く喜んでくれるのですが、その笑顔を見るのが私にとっては大きな喜びだったし、みんなに必要とされているというか、自分の存在を確認できるようなところが昔からあって、それが私の原点としてあるんです。

Q.就職はどうされたのですか?

笠尾:お菓子といっても色々な仕事があるのですが、まずはデザートもケーキも作れるホテルに入ろうと思い、仙台のホテルで4年ほど働きました。そこは小さなホテルだったこともあり、ひと通りの仕事をまんべんなくやらせてもらうことができました。ある時、東京から来たシェフの講習会で助手をやらせてもらったことがあったのですが、その方に色々相談に乗ってもらいながら、24歳の時に上京し、ホテルやレストラン・ケーキ店で働きました。パティシエや飲食業の人は、ある程度覚えたら次のステップという感じで、職場を変えていくことが多いんです。その後、将来を悩んでいた時に、IDEEで働いていた友人から、新しいカフェができるということで誘われ、そこで働くことになりました。

Q.それまで身を置いていたホテルなどとはだいぶ環境が違いそうですね。

笠尾:そうですね。当時は色んなことを考えていた時期で、ちょっと息抜きじゃないですが、まずはやってみようと思ったんです。やはりそれまでの職場とは考え方や発想が全然違い、それまでやってきたことが良い意味で通用しないところがあって、もっと自分で考えないといけないと思うようになりました。それまでは、自分が作りたいと思うケーキが全然できなくて、何回試作をしてもピンと来るものがまったく作れなかったんですけど、IDEEに入ってから考え方が変わり、ようやく自分の好きなテイストのものが作れるようになっていった気がします。

福井さんの個展時に笠尾さんがつくったおみやげのクッキー。

Q.具体的には何が大きな違いだったのですか?

笠尾:例えば、お菓子のデザインにしても、普通季節に合わせて考えることが多いのですが、IDEEでは、例えばファッションをテーマに考えたりする必要があったんです。また、普段のメニュー以外にもスタッフの誕生日などにオリジナルケーキを作ったり、イベントがある時にはパーティのテーマに合わせたものを作ったりするようになりました。普段キッチンの中にいると直接お客さんと接する機会はなくて、ホールスタッフから美味しいと言っていたということを伝え聞くくらいで、お客さんの反応を間近に感じることができなかったんですね。そこで、どうすればお客さんと対話が出来るようになるのかを考えるようになったのですが、オーダースウィーツなら最初から相手とやり取りをして、お渡しまで自分でできると思い、SWEETCHを立ち上げることになりました。私の原点であるお客さんの笑顔が見られるということを最初から最後までできるというのが、自分に合っている気がしたんです。<続く>

福井利佐 

何をイメージして作っているのですか?

まず香りを想像して、美味しそうかなと思ったら試作をするというパターンが多いですね。

Q.私も個人的にクッキーなどの焼き菓子を作ったりするんですけど、自分で調節しながら作れるからとても楽しいですよね。でも、何かが足りなかったり、甘過ぎたりすることも多いんです。その点、笠尾さんが作るものは毎回甘過ぎず、スウィーツが苦手なうちの主人も食べられるし、ただ美味しいだけではなく斬新な工夫もあって、「この味の組み合わせをするのは凄い!」といつも感動させられるんです。

笠尾:実は、全然甘さを控えているわけではなくて、スパイスを使ったり、甘さを感じない組み合わせにしていることが多いんです。私も甘過ぎるものがあまり好きじゃないので、どちらかというと自分に合わせて作っているところがあると思うんですけど、味に関してはやっぱり自分が本当においしいと思っているものではないと自信を持って出せないですからね。

Q.ネタ帳みたいなものはあるんですか?

笠尾:全部頭の中でやっていますね。たとえネタ帳をつけていても、その時に作ってみたらうまくできないということも多いんです。私の場合は、まず香りを想像して、美味しそうかなと思ったら試作をするというパターンが多いですね。

(左)砂糖のメリーゴーランド『Happy Merry go- round』、(右)クッキーシャンデリア『クリスマスイベント』

Q.さまざまな産地の食材を使っていますけど、研究取材のような感じで色んな土地に足を運んでいるんですか?

笠尾:たまには一人で旅することはありますが、全国各地に友達がいるので、だいたい現地に住んでいる友人と合流しています。食材などに関しては、友達の知り合いの農家さんのところに最初に遊びに行って、食材の知識を教えてもらったり、味を確かめてから取り寄せるということが多いですね。ヨーロッパなんかに行くことも多いんですけど、それはあまりお菓子作りとは関係なかったりします。SWEETCHを立ち上げる前に2ヶ月ほどヨーロッパを回っていて、友人の紹介でフランス人のお家に遊びに行った時に、「良い機会だからケーキ屋で働いてみなよ」と紹介してくれたことはありましたけど、基本的にはインスピレーションや刺激を与えてくれる場所に行くことがほとんどですね。美術館やギャラリーなども普段から行きますし、雑貨も好きなのでよく見ていて、そういうものが後々になって役立つことはありますね。

福井利佐さんの作品。(左)「葵の上」(宝生流和の会2013メインビジュアル)、(右)「Chiled of Grimm」

Q.お店の場合、同じ型、デザインのものを量産していくことがほとんどだと思うし、職人さん的なイメージがあるけど、笠尾さんの場合はオーダースウィーツだから常に違うものを作っているわけで、それも面白いですよね。ある意味アーティストである私にも近そうだし、相手のバックグラウンドなんかを考えながら、その人のために作っていくというのは、普通の生産とは違う楽しさがありそうですね。

笠尾:そうですね。毎回新たに色んなことを調べたり、前準備は結構大変なんですが、顔が見える相手のためにデザインを考えていくから、結果的にその人に寄り添うようなものができているんじゃないかなと。食べ終わった後に「ありがとうございました」と直接言ってもらえたり、メールが届いたりするのはうれしいですし、以前には、これからプロポーズに行くという男性から、おそらくプロポーツをするであろうホテルの形をしたケーキを作ってほしいというオーダーがあったんですよ。

Q.凄い!結婚記念日とか人生の節目というのはいいですよね。ケーキは、幸せな時やサプライズの時には欠かせないものですもんね。<続く>

福井利佐 

お菓子作りの肝は何ですか?

一番センスがわかるのは、気がきかせられるか、先を見て仕事ができるかというところだったりするんです。

Q.笠尾さんの作品を見ていると、どんなものでも作れてしまいそうに見えるんですけど、対応できないオーダーというのもあるんですか?

笠尾:商標登録のあるキャラクターものは作れないんですよ。あと、壊れやすいものとかも難しいですし、「完全にお任せで」とか「とにかく可愛く」といったオーダーは、お客さんの好みがあるので、詳しく伝えて頂きたいですね(笑)。

小南泰葉「Chimera」ジャケットアートワーク 水道橋博士「藝人春秋」表紙絵

Q.私もオーダーをされる仕事があるんですが、私のような作風だと、それを知った上でオーダーしてくれることが多いので、幸い自分のテイストを入れられるものがほとんどなんです。たまには、それが難しいケースもあるけど、それでもうるさくならない程度には自分のテイストを残すようにしているし、良い意味で相手を裏切りたいという気持ちが強いんです。笠尾さんの場合はいかがですか?

笠尾:やっぱり自分のテイストに近くないオーダーもたまにはあって、それをいかに納得できる形に落としこんでいくかというのはいつも難しいですね。でも、私も基本的にはどんな依頼でも想像以上のものを作って、相手を驚かせたいという思いがありますね。

Q.お菓子作りに必要なセンスや能力というのはどんなものだと思いますか?

笠尾:私は、学生の子たちに手伝ってもらうこともあるんですが、一番センスがわかるのは、気がきかせられるか、先を見て仕事ができるかというところだったりするんです。結局、段取りなどの仕事の仕方や技術的な部分というのは、後々ついてくるんですね。だから、最初のうちにそういった能力を身につけることができないと、後々厳しかったりするんですよね。

Q.料理が得意な人たちを見ていて感じるのは、”段取り力”が凄いということです。

笠尾:私の場合は、ホテルの厨房時代にそれを培ったところはありますね。チームで動かないといけないので、いま先輩は何がほしいのか、次に何を作るかを考えないといけないし、逆に上の立場だったら、下の子をどう使うかを考える。私のところで働いてくれる子たちにいつも最初に伝えるのは、いまお話したような気の使い方や仕事のやり方を早く吸収しないと置いていかれてしまうということなんです。私は色々回り道をして、10年経ってようやく独立できるようになったんですけど、いまはこれだけたくさん情報もあるし、それでは少し遅いのかなという気もします。これからお菓子作りに進む人には、私が10年かかってやってきたことを、がんばって凝縮した仕事の仕方をすることで早く習得してもらいたいですね。そうすれば、その分他の修行もできますからね。最近はお菓子好きの人たちが、アパレルやデザインなど違う業界から参入してくることも多いですし、下積みがどれくらいあるかということは関係なくなってきているんですよね。

Q.でも、やっぱり笠尾さんの10年は無駄じゃないと思うんですよ。そういう経験がないと本物にはなれないですよね。特に最近は、デザインは良くても美味しくないものも多いし、その点笠尾さんはデザインも良いし、味もとても美味しい。

笠尾:味の部分は絶対ですよね。たしかに最近は味よりデザイン性が求められるようなものも多いですが、両立したものを作りたいと思っています。<続く>

福井利佐 

どんなワークショップをやっているのですか?

うちに帰ってからも作りたいという人もいるので、ベーシックなレッスンもやっていますが、どちらかというとこの場で一緒に楽しむというものが多いですね。

Q.これまであったオーダーで印象に残っているものはありますか?

笠尾:アイスランドの観光PRイベントのために、1メートルくらいの山の形のケーキを作ったんです。以前アイスランドの火山が噴火した時、観光客を呼び戻すために火山のケーキを作ってほしいという依頼だったので、ケーキの中にドライアイスを仕込んで、それを噴煙に見立てたんです。自虐ネタなんですけど(笑)、面白かったですね。

Q.オーダーでは色んなスウィーツを作っていますが、笠尾さんが一番得意なものは何なんですか?

笠尾:実は、テイクアウトのケーキよりも、お皿に盛り付けるデザートを作るのが一番好きなんですよ。そういうものはオーダーケーキではできないので、私がやっている「素材を愉しむワークショップ」で生徒さんに食べてもらって楽しんでいますね(笑)。オーダーケーキはデザインが、デザートは食材の組み合わせが楽しいですね。

Q.ワークショップのお話ももう少し聞かせてください。

笠尾:先ほどお話した季節の素材を愉しむワークショップでは、季節のフルーツの栗や桃などをテーマにして、メインのケーキをお客さんに作ってもらい、私が作った前菜やスープ、栗や桃のデザートコースを一緒に食べてもらいます。うちに帰ってからも作りたいという人もいるので、ベーシックなレッスンもやっていますが、どちらかというとこの場で一緒に楽しむというものが多いですね。最近は常連の方も増えてきて、みんなが作りたいスウィーツの企画をやってみたり、自分がニューヨークに行ってきた時なんかは、向こうの気分を味わってもらうためのスウィーツや料理を作ったりもしましたね。

Q.私も子どもと一緒にワークショップに参加させてもらったんですが、子どももいると後ろめたさがないし(笑)、とても良かったです。混ぜたり、焼いたり、飾り付けをするくらいで包丁も必要ないから子どもでも入りやすいし、飾り付け用のアラザンを見た瞬間に興奮していました(笑)。そういえば子どもの頃、そんなに無理してたくさん作らなくてもいいよっていうくらい、母が凄くたくさんマドレーヌを作ってくれていたんですけど、お料理よりもお菓子の方が、気軽に親子がつながりやすい気がします。

笠尾:そうですね。私も子どもの頃は、作り方を教わるというよりは一緒に遊ぶような感覚だったんですけど、やっぱり母親からの影響がいまに活きているのだと思います。

Q.うちの子どもの保育園は食育に力を入れていて、簡単なごはんやおやつ、ジャムなどを作ったりしているんですけど、自分が作ったものの方が思い入れもあるからよく食べるんですよね。子どもの頃、家でおばあちゃんがジャムを作ってくれていて、それが凄く美味しかったんですね。でも、そういう経験がない子だと、ジャムが自分で作れるとは思わない。そういう意味でも、笠尾さんのお母さんが家庭科の先生だったことはやっぱり大きいんですね。

笠尾:お菓子を作った楽しい思い出があったからこそ、この道に進んだのだと思います。でも、実はうちの母親、料理はあまり上手じゃなかったんです(笑)。先生をやっているから基礎はできるんですけど、被服の方が得意なので(笑)。私もお料理は作るより食べる方が好きなんですよ(笑)。<インタビュー終わり>

福井利佐 

インタビューを終えて

私たちアーティストの仕事と近くて共感することも多かったし、スウィーツを手渡す時の相手の幸せな気持ちというのが手に取るようにわかって、素敵なお仕事だな〜と思いました。

「いつもお菓子の受け取りだけで、あまりお話をしたことなかったのですが、以前から笠尾さんのことは、余分なことは話さず、作ることに徹している職人的な匂いがしていて気になっていたんです。今日は、ドアを開けた瞬間から甘い香りの充満しているアトリエで色々なお話しができ、とても良い機会になりました。いつもしっかりしたお味とコンセプトで、センスだけではできない仕事だろうとは思っていましたが、ちゃんとしたバックグラウンドをお持ちで納得しました。
また、オーダースウィーツというスタンスが、私たちアーティストの仕事と近く、共感することも多かったです。しかも、一人ひとりにスウィーツを手渡す時の相手の幸せな気持ちというのが手に取るようにわかるわけで、素敵なお仕事だな~と思いました。私も笠尾さんと同じで、見た目も含め甘過ぎるスウィーツはあまり好きではないのですが、センスの良いスウィーツを頂いた時の幸福感はなにものにも代え難いものです。今日こうしてお話しをさせて頂いて、ますますSWEETCHのファンになりました」

インフォメーション

4月21日に自由が丘・IDEE SHOPにて開催される「IDEE MARKET」(11時~日没/雨天中止)に笠尾さんが参加し、焼菓子等を販売予定。
福井さんが毎年メインビジュアルを制作している宝生流宗家による能楽公演「宝生流和の会『体感する能ー葵の上ー』」が6月29日に開催。さらに、8月中旬からは銀座・POLA MUSEUM ANNEXにて、東京では2年ぶりとなる個展を開催予定。

もっと知りたい人は…

  • 福井利佐「KIRIGA」(2012/青幻舎)

  • 福井利佐「たらちね Tarachine 切り絵原画集」(2008/ボーンデジタル)

  • 水道橋博士「藝人春秋」(2012/文藝春秋)

  • 「おいしい洋菓子の大事典」(2004/成美堂出版)

  • 相原一吉「もっと知りたいお菓子作りのなぜ? がわかる本」(2003/文化出版局)

  • 山本ゆりこ「芸術家が愛したスイーツ」(2012/ブロンズ新社)

  • 福井利佐 

    福井利佐

    切り絵アーティスト

    切り絵アーティスト。1975年静岡県出身。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。大学の卒業制作として制作した「個人的識別シリーズ」がJACA日本ビジュアルアート展特別賞を受賞。主な仕事は、Reebokとのコラボレーションスニーカー、アーティスト中島美嘉のジャケット・ステージ装飾、「手塚治虫×福井利佐byUNIQLO」でのTシャツデザイン、桐野夏生氏の小説への挿画、「婦人画報」表紙へ切り絵での参加など。著書に、「KI RI GA」「たらちね Tarachine 切り絵原画集~映像 作品『たらちね』の舞台裏~」がある。

  • 笠尾美絵 

    笠尾美絵

    オーダースウィーツ「SWEETCH」主宰

    SWEETCH主宰。1974年生まれ。栄養士の短大卒業後、仙台市内のホテル、東京都内のレストラン、ケーキ店、IDEEのレストランなどにて、パティシエとして様々なスウィーツに携わる。IDEE退社後、数ヶ月間のヨーロッパ放浪の後、2005年にSWEETCHを立ち上げ、IID(世田谷ものづくり学校)内にアトリエを構えて活動を開始。2006年にアトリエを広尾に移し、現在に至る。